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オレゴン兵庫県人会会長篠原杏子さん=神戸市北区
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オレゴン兵庫県人会会長篠原杏子さん=神戸市北区
公園を借りて集うオレゴン兵庫県人会=米国ポートランド市
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公園を借りて集うオレゴン兵庫県人会=米国ポートランド市

 米国オレゴン州のポートランド市は、全米一住みたい街として人気を集める。この西海岸の都市と、神戸市や兵庫県との結びつきが急速に深まっている。農家やシェフの交流イベントや食品企業の展示会が催され、先月はポートランド市長らが神戸を訪れ、経済やまちづくり、防災の交流促進に向けた覚書を結んだ。橋渡しの中心となっているのが、オレゴン兵庫県人会会長の篠原杏子さん(40)だ。神戸出身で、夫の仕事の関係でポートランドに暮らす。なぜ太平洋を挟む二つの地域をつなごうと尽力するのか、聞いてみた。(辻本一好)

 ポートランドとはどんな所なのですか。

 「カナダに接するワシントン州とカリフォルニア州の間にあるオレゴン州で、一番大きな都市です。都市圏人口は約200万人。内陸部の穀物の集積地で林業も盛んです。クラフトビールやワイン、有機農業で知られ、人口当たりのレストランやコーヒーショップの数が多く、ニューヨークやサンフランシスコを抑えて、最も食のクオリティーの高い街にも選ばれています」

 なぜポートランドで暮らすことになったのですか。

 「国際農業者交流協会の研修で、ポートランド郊外で1年間生活したのがきっかけです。生まれ育った神戸とよく似ているんですね。港町で水辺と山が近く、農業や漁業が街のそばにある。神戸の北区の弓削牧場が実家で、住宅地に囲まれた環境で酪農やレストランを手掛けています。私も街に近い農業はどうあるべきかと考えていたので、ポートランドの食と農に興味を持ったのです」

 「夫は、同じ研修で造園を勉強していました。結婚後の2011年、夫がポートランドに本社がある日本庭園の会社に就職し、カリブ海のイギリス領バージン諸島で日本庭園を造る仕事を担当したため、一緒に現地に渡りました。ポートランドで暮らし始めたのは、13年からです」

 環境への取り組みや市民活動でも知られていますね。

 「一つのきっかけは1970年代の高速道路の大気汚染問題でした。建設に反対する住民の支持を受けた市は、代わりに郊外と市街を結ぶ路面電車の整備を進めました。川沿いの高速道路を撤去して造った公園は市民の誇りで、食の祭典などのイベントが開かれています。西海岸を代表する魚といえばサケなのですが、サケの生態系を守るための農業やまちづくりを認証する『サーモンセーフ』という地域認証団体の本部があることでも知られています」

 オレゴン兵庫県人会を設立したのは、どういう経緯で?

 「バージン諸島では日本人がいなくてつらかったのですが、ポートランド近郊には日本人が約3千人いて、年の近い女性たちと仲良くなりました。みんな日本の文化や教育、ビジネスなど、いろんなことに取り組んでいて手伝うようになった。ポートランドには特に食をキーワードにいろんな日本人が訪ねてきます。その橋渡しなどをしているうちに、ポートランドの農家やシェフ、自治体職員ともつながりが広がった。神戸や兵庫と関連したイベントも増え、コミュニティーがあった方が便利だろうと、昨年3月に県人会をつくったんです。6月には神戸市の神戸インターナショナルクラブ・ポートランド支部も発足させました」

 そして、ポートランド市長が神戸にやって来ました。

 「ポートランドの行政の人は神戸や兵庫のいろんなことに興味を持っています。例えば、農業。あまり知られていませんが、大規模なアメリカの農業もほとんどは日本と同じ家族経営です。特にポートランドは小面積の『スモールファーマー』が多く、こだわりが日本的。小規模な日本の農家が使う道具や、加工やサービスも行う6次産業化などに関心が高い。それを支える農協や生協などの協同組合にも。特にリーマン・ショック後は、お金中心の社会に疲れた人々が協同組合などの仕組みに関心を持つようになっている。金融やエネルギーなど、総合的な事業を手掛ける日本のような協同組合はないので、うらやましいと言われます」

 「そして、防災ですね。ポートランドは数百年ごとに大地震があり、近く起こると考えられていて、神戸や兵庫の震災の経験を学びたがっている。地球温暖化を防止するための自然エネルギーや環境技術にも強い関心があります。いずれも今回、ポートランド市と神戸市が結んだ覚書に盛り込まれています」

 では、ポートランドのことでぜひ日本に伝えたいと思うものは?

 「自分の街は自分がつくっている、市の資源は市民が使う、そういった意識に基づいた街と人との関係ですね。例えば、まちづくりで評価が高いものに緑地帯や公園の充実があります。公園の一角には屋根やピクニックテーブルがあるスペースがあり、市民が自由に借りられる。賃料は公園の維持費に充てられます。今年、オレゴンで企画した兵庫と神戸の食品展で、『やきそばパン』のプロジェクトを兵庫県人会でサポートするのに、公園を借りて試食会を開きました。神戸でも、今ある公園の価値を高める方法になるのでは」

 「再開発などの企画には、自治組織のネイバーフッド・アソシエーションが参加します。意見を聞く場は住民が出向きやすい夕刻に設け、SNS(会員制交流サイト)などで参加を呼び掛ける。スナックや飲み物を用意して、気軽に意見を発表してもらう。多くの人が参加できるよう工夫し、何度も機会を設け、時間をかけて案を作り上げていく。地域づくりのプロジェクトを住民運動で手掛けてきた歴史があるので、早い段階から意見を吸い上げることをとても大事にします」

 中小企業や起業の多い街と聞きました。

 「もともと大きな企業がないこともあって10年、20年先を見すえて個人事業主を育てようと、特にマイノリティーや女性をサポートする政策を充実させている。ライフスタイルを大事にしながら事業をしようという人が多くやってきます。シェア工房、シェアキッチンなど、何かを始める土台を提供するビジネスも盛んです。人が主体のまちづくりをぜひ見に来てもらいたいですね。神戸・兵庫とポートランド・オレゴンで人が行き来することで、いい影響を与えあうことができる。アイデアを交えながら、お互いが求める新しい経済をつくっていけると思うのです」

【ひとこと】日本の小規模な農業や協同組合が、持続可能な地域経済の視点から高い関心を持たれていることが面白い。仕組みの背景にある価値観や文化を理解しあうことが、地域がつながる価値を高める鍵になると思う。

【しのはら・きょうこ】1979年神戸市生まれ。弓削牧場では食やエネルギー事業の企画に携わる。オレゴンを拠点に食と農、エネルギー、環境関連の視察やプログラムのコーディネーターとして活動する。夫と長女との3人暮らし。

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