商店街を風船で埋め尽くせ 新「パイ山」デザイナーが仕掛けるアート実験

2019/12/17 14:30

商店街を風船で埋め尽くすイベント「三宮ロトンドロンド」のイメージ図(津川さん提供)

 表面が鏡のような風船で商店街を埋め尽くす日本初のイベント「三宮ロトンドロンド」が20日、神戸・三宮の商店街で始まる。写真映えするアートでにぎわい創出を狙うだけでなく、商店街に斬新な仕掛けを施すことで行き交う人々の行動がどう変化するかをコンピューターで分析。データを公共空間の今後の設計に役立てる都市実験でもある。(中村有沙) 関連ニュース “オシャレすぎる”薬局 世界的デザイン賞受賞 新芸術「ヘッドアート」で神職も理事も大変身 動画が話題に 美術館が収集「形なきアート」 大阪・国立国際美術館で連日披露

 会場は、三宮センター街南側の筋に位置する「三宮本通商店街」。約150メートルの通りに約150個の風船を並べる。浮かべる高さは地面から120センチ、90センチ、60センチの3段階。アルミ製の風船には周囲の景色が鏡のように映り、非日常感を演出する。通行人は風船に触れたり、間を縫うようにして歩いたりするため、滞留時間が長くなると予想され、各店舗への集客効果も期待される。
 同商店街振興組合などでつくる実行委員会が主催。「パイ山」「でこぼこ広場」の通称で親しまれた三宮の「さんきたアモーレ広場」改修に伴い、神戸市が実施したデザインコンペで最優秀賞を獲得した建築家津川恵理さん(30)=東京=がデザイン・アドバイザーを務める。同組合の協力依頼に津川さんが快諾した。
 イベントは、津川さんと知人のデータアナリスト伊藤直美さん(30)が共同で2018年に米ニューヨークで行った都市実験をアレンジ。仮設の足場を組んだ歩道に大量の風船を並べるという意欲的な試みで、訪れた人に好評だったという。一人一人が快適に感じられる公共空間の使い方を探るのが目的で、個々の行動パターンに多様性が生まれるよう、予測不能な動きをする風船を活用した。
 今回は訪れた人々の行動や表情を、専門家がプライバシーに配慮した上でコンピューターの解析プログラムで分析。結果は将来、都市計画や公共空間の設計に生かす。
 同組合の理事を務める熊野紀彦さん(47)は「普段はただの通路である商店街の道にアートを取り入れることで、その場所の価値を高められる。商店街の活性化につながれば」と話す。
 イベントは22日までで、各日とも正午~午後7時。同組合TEL078・332・2950
■神戸出身の建築家・津川さん発案
 イベントでデザイン・アドバイザーを務める建築家津川恵理さん(30)は、神戸市灘区の出身。早稲田大大学院修了後に国内で約3年間働き、創造性を追求したいと米ニューヨークの建築事務所で1年間経験を積んだ。「神戸を世界に通用する街にできれば」と夢を語る。
 最優秀賞を受けた「さんきたアモーレ広場」のデザインコンペは力試しのつもりで応募。採用には「自分が一番驚いた」という。以来、広場の関連事業や今回のイベント会場となる商店街での活動など、故郷に関わる機会が増えた。
 神戸での都市実験は、ニューヨークの規模の約6倍という。「自分の取り組みに共感し、支援してくれる人がいる。さらに、地元・神戸で実現できるということが奇跡みたい」と喜ぶ。
 5歳のときに阪神・淡路大震災を経験。自身の成長とともに神戸の街の変化を肌で感じ、誇りを持っていた。「地元を離れた後も『いつか神戸に戻り、建築家として何かをしたい』と考えていた。こんなに早く実現して本当にうれしい」
 ニューヨークの公園では読書をしたり、睡眠を取ったりと一人一人が自由に過ごしていた。「個人の快適さを実現する公共空間をつくりたい。その場所が愛されるきっかけになると思う」。それが建築家としての当面の目標だ。

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