「いじめは職員室内にもある」前提に 教育評論家・武田さち子さんに聞く

2020/02/16 16:00

教員間の暴行・暴言問題について話す武田さち子さん=東京都内

 神戸市立東須磨小学校で発覚した教員間の暴行や暴言は、その卑劣な手口を含め、社会に大きな衝撃を与えた。なぜ暴行、暴言がこれほど職員室にまん延したのか。防止策や児童のケアは-。この問題で外部の委員会による調査が大詰めを迎える中、改めて課題を考えたい。いじめや体罰の問題に詳しい教育評論家の武田さち子さんに聞いた。(論説委員・小林由佳) 関連ニュース 「嫌がってるやん」自身の指導をとがめた男児に立腹、けが負わす 小学教員、全校児童の前で謝罪 教員の残業減へ模索 補助職員に「依頼書」、電話は午後5時から自動音声 「“理不尽な校則”SNSで不満言うだけでなく学校と交渉を」生徒と一緒に校則変えた教師の思い

 -東須磨小のケースは特異か。
 「そうは思わない。教員同士のいじめは、昔から結構あった。1997年から10年間、学校や職場のいじめの電話相談活動に関わった。いじめ被害を訴える教員は多く、大事なプリントを隠す▽生徒に悪口を言う▽会議の日程を教えない-など、幼稚な事例が目立った」
 「教員の大半は、いわば『学校順応者』。ずっと学校的な価値観の中で生きてきた。同質的、閉鎖的になりがちで、いじめが起きやすい。校長や教頭は、優しい教員より子どもをしっかり管理するタイプを評価する。管理職から評価され、発言力のある教員に追従して保身を図る同僚もいる。職員室でもいじめは起きるという、当たり前の前提に立った対策が必要だ」
 -確かに教員も聖人君子ではない。だが、激辛カレーを無理強いするなどのやり口にはあぜんとした。
 「今回の加害者が当てはまるかどうかは分からないが、大学の体育会系部活動で起きるいじめのノリに近いと感じた。罪悪感がなく、他人をいじめることで万能感を味わっている印象だ。あくまで一般論だが、いじめの加害者は年齢が上がるほど反省しにくく、同じような行為を繰り返す。人間関係のコントロール力にたけていて、周囲を味方に付けるから陰湿化、巧妙化しやすい。大人の場合は精神的な病理を抱えている可能性もある」
 -東須磨小の児童たちのショックは計り知れない。
 「子どもたちの不安や悩みにきめ細かく対応するのはもちろん、全教員が今回のことをきちんと反省し、大人であってもいじめは許されないとしっかりと示すべきだ。調査結果や処分の内容も、子どもに分かるように丁寧に説明した方がいい。一番やってはいけないのは、さっさとふたをすること」
 「暴力や暴言を振るった教員を子どもと直接関わる仕事に戻すのは、リスクが大きい。『再発』の恐れがある。深刻な体罰で処分された教員が現場に戻ってまた暴力に訴えるケースをいくつも見てきた。万が一、教壇に復帰させるのであれば、カウンセリング体制を整えて心の動きや行動を把握してほしい」
 -教員間のいじめ防止には何が求められる?
 「企業やスポーツ界のハラスメント防止のガイドラインなどを参考に、各教育委員会で学校版ガイドラインを整備し、それを順守できる体制をつくらなければならない。東須磨小については、子どもたちや保護者の意見を取り入れながら、防止策を考えるべきだ。そうでないと、子どもたちは納得できない」
【たけだ・さちこ】1958年東京都生まれ。教育評論家。国内外の子どもの人権に関わる活動に携わる。学校の事故や事件の調査・研究を担う一般社団法人「ここから未来」の理事。自治体の外部調査委員なども歴任した。

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