「灘のけんか祭り」開催どうする 「密集・密接」不可避、播磨の秋を左右
2020/06/21 06:30
担ぎ手がひしめく「灘のけんか祭り」。開催可否の判断が間もなく出る見通しだ=2019年10月、姫路市白浜町
新型コロナウイルスの影響で、播磨のシンボルと言える秋祭りが難しい判断を迫られている。特に関心を集めるのが、松原八幡神社(兵庫県姫路市白浜町)の秋季例大祭だ。「灘のけんか祭り」として全国に知られ、「雨が降ろうが、やりが降ろうが…」とも伝わるが、見どころとなる屋台の練り合わせには担ぎ手の密集が避けられない。伝統もある。誇りもある。ただ「今は安全最優先」。地元からはそんな声も出始めている。(井沢泰斗、地道優樹)
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毎年10月14、15日に催行されるけんか祭りは、旧灘七カ村(地区)の屋台が神社に集まって行う練り合わせと、御旅山で3基の神輿(みこし)を激しくぶつけ合う「神輿合わせ」が最大の魅力。兵庫県の重要無形民俗文化財にも指定されている。屋台練りが中止されれば、昭和天皇の容体悪化で自粛した1988年以来という。
「他の地域からも『灘はどうするのか』と電話が入る。皆うちの判断を待っているのだろう」。今年の仕切り役「年番」を務める八家地区の松本孝宣総代(60)は渋い表情を見せる。
祭りでは、締め込み姿の男たちが威勢の良い掛け声とともにぐっと体を寄せ合う。観客は2日間で約20万人。それが一体となるからこそ迫力が生まれるが、同時に密集、密接がつきまとい、飛沫(ひまつ)も飛び交う。
七カ村の代表者でつくる総代会は、今月初旬から実施の是非について本格的な検討を始めた。各地区で意見を集約し、下旬の総代会で一定の方向性を出す方針という。判断材料に住民投票を取り入れる地区もあり、松本総代は「何から何まで異例の決断。この数週間は頭が痛い」と漏らす。
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周辺の秋祭りも「灘」の様子をうかがいつつ、検討を進める。播磨最大の氏子数(25地区)とされる魚吹(うすき)八幡神社(同市網干区)の秋祭りは、7月中旬の総代会で方針が決まる。小中学生が務める乗り子の衣装制作など「準備が間に合うぎりぎりのタイミング」(沢弘隆宮司)という。
高砂市と姫路市の氏子計8地区が参加する大塩天満宮(姫路市大塩町)の秋祭りも、7月下旬に方向性を出す。各地区の意見を取りまとめる中之丁地区で代表役を務める橘秀和さん(55)は「仮に開催の方針が決まっても、周辺の秋祭りが中止になるようであれば足並みをそろえたい」とする。
■祭事実施の具体的基準示さず 神社本庁の通知■
伝統的な祭事を巡っては、全国の神社を統括する神社本庁(東京)が慎重な対応を求める通知を出しているが、判断は各神社側に委ねられている。灘のけんか祭りの関係者からは「具体的な基準を示して」との要望も上がる。
通知が出たのは2月。祭りの開催時は消毒などの衛生管理を徹底し、感染リスクが高い環境が生じる場合は中止や規模の縮小、時期の変更を検討するよう求めた。5月にも通知の徹底が呼び掛けられた。
ただ、明確な判断基準はなく、けんか祭りの関係者が具体的な解釈を尋ねても、神社本庁側の回答は「(実施する場合は)万全の対策で執り行っていただきたい」。この関係者は「やる、やらないの判断も、感染が広がった場合の責めも、全て地元が負うということ」と受け取った。
一方、政府は緊急事態宣言の全面解除に当たり、8月以降の祭り開催を容認。だが、人と人との距離を十分に空けるなどの条件を付けた上、参加者の把握が困難なことを理由に慎重な対応も求めた。
氏子の一人は「安易にやめてしまえば、今後も感染リスクがある限り屋台を担げないことになり、灘の伝統そのものが消えてしまう」と危機感を募らせる。(小川 晶)
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