童謡の里飛ぶ野生赤トンボ 三木露風の故郷で「アキアカネ」自然羽化

2020/06/30 14:50

幼虫のヤゴから羽化したばかりのアキアカネ。淡い赤色は成長すると濃くなる=たつの市揖西町

 童謡「赤とんぼ」を作詞した三木露風(1889~1964年)の故郷・兵庫県たつの市で、全国で激減している赤トンボの代表種「アキアカネ」の自然羽化が確認された。人工飼育に毎年成功している地元のNPO法人が、蓄積したノウハウを生かして産卵環境を整備。これまでに約90匹が飛び立ったといい、取り組み開始から3年目で悲願の野生繁殖を実現させた。(直江 純) 関連ニュース 体長2センチ、国内最小のハッチョウトンボ 兵庫の湿原を舞う 童謡「赤とんぼ」の三木露風 若き日の焦燥、古里への思いつづった書簡見つかる 大きな羽「他のチョウよりきれい」国蝶オオムラサキ、小学校で次々羽化

 赤トンボが飛び交う秋の景色は長く日本で親しまれてきたが、アキアカネは2000年ごろから各地で急激に減った。水辺のほかに水田に産卵することも多いため、農薬の一部が要因として指摘されている。
 自然羽化を成功させたNPO法人「たつの・赤トンボを増やそう会」は、露風が描いた原風景の復活を目指して08年に発足した。宍粟市内で交尾後の成虫から卵を採取し、11年に初めて人工羽化に成功。その後も精力的な生態研究などで、着実に羽化数を伸ばしていった。昨年は486匹が、たつのの空に飛び立った。
 一方で、産卵期を迎えたアキアカネを自然に呼び込むため、18年には休耕田に水たまりを作って産卵に適した環境を整備。1年目は失敗したが、2年目の19年秋には複数のつがいが卵を産んだ。羽化に必要な水が不足することのないよう毎日見守り続けた結果、幼虫のヤゴは順調に成長。6月中旬以降、相次ぐように成虫となった。
 童謡「赤とんぼ」に出てくるトンボの種類については諸説あるが、歌詞に「とまっているよ 竿(さお)の先」とあることから、そうした習性を持つアキアカネとの見方が根強い。
 同会の前田清悟理事長(71)は「野生のアキアカネは市内では年に数匹しか目撃されていなかった。赤とんぼの里にふさわしい情景を取り戻すため、野生が産卵しやすい環境を整えていきたい」と意気込んでいる。
【アキアカネ】赤トンボの代表種。全国で数が減り、兵庫県のレッドリストでは「最近減少が著しい種」などを示す「要注目種」に分類されている。4~5月に水田や水たまりの卵からヤゴがふ化し、6~7月に羽化して成虫となる。盛夏は標高の高い山間部で過ごし、10~11月に平野部に下りてきてつがいが交尾し、産卵する。

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