「一緒に伝承、今だけ」親世代30年で激減 被爆2世受け継ぐ使命
2020/08/05 09:44
発行する「二世の会だより」を持つ兵庫県被爆二世の会の中村典子会長=神戸市中央区
高齢化で原爆体験者が減少する中、広島と長崎の被爆者の子どもらでつくる「兵庫県被爆二世の会」の活動が重要度を増している。広島では6日に75回目の原爆の日を迎えるが、被爆者健康手帳の所持者数は全国、兵庫県ともこの30年間で半数以下に。被爆者団体の活動も先細りとなっており、同会は「被爆者と2世が一緒に活動できるのは今だけだ」と意義を訴え、2世の証言集をまとめたり、親の被爆体験の伝承に取り組んだりしている。(井上 駿)
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兵庫県の「二世の会」は、親の被爆を語り継ぎ、健康不安を抱える会員同士が情報交換する場として、2011年に発足。16年からは、父が広島で被爆した中村典子(みちこ)さん(71)=神戸市垂水区=が会長を務める。12年の会員数は23人だったが、現在、2、3世計85人が所属している。
年3回発行する会報は、主に2世や3世たちの証言を掲載する。また2世間の交流会を開き、1世の言葉を聞くほか、現段階では分かっていない被爆の遺伝的影響について知るため、医師を招いた放射線障害の勉強会も催す。
一方で、記憶の継承の期限は迫っている。兵庫県のまとめでは、県内の同手帳所持者数は、2019年度末が2852人=グラフ=で、全国の傾向と同様にここ30年間で半数以下に。平均年齢も82歳となり、2世がいかに親たちの記憶を受け継ぐかが、喫緊の課題となっている。
県原爆被害者団体協議会によると、県内には神戸や西宮、尼崎など14の「被爆者の会」があり、19年時点で手帳所持者の約3割に当たる計約千人が所属していた。だが会員数が多い神戸など一部を除き、市町単位の会の多くは、被爆者の高齢化で活動継続が困難になっているという。
「親が亡くなったり、自分の健康不安に直面したりして初めて、『二世』を意識する人も多い」と中村さん。中村さんの父は、広島で爆心地から1・7キロの地点で被爆。中村さんは広島の戦後復興とともに育ったが、「被爆者は市井にたくさんいて、意識したことはなかった」と振り返る。
しかし父が亡くなった4年後、中村さんは骨髄性白血病を発症。これが転機となり、2世としての活動を始めたという。父は進んで被爆体験を語らなかったため、親族から話を聞き直し、証言にまとめた。
「二世の会」は戦後75年を機に、伝承活動にも積極的に取り組む。7月には、広島の被爆者の一人、古石忠臣さん(92)=神戸市垂水区=の経験を紙芝居にし、神戸市教育委員会に平和教材として提供した。中村さんは、「悲劇を繰り返さないという1世の思いを、最も身近な2世たちが引き継ぎたい」と話す。
■おびえる遺伝的影響 2世、推計30万~50万人
全国被爆二世団体連絡協議会(広島市)によると、被爆2世は、全国で30万~50万人と推計されているが、その正確な数は分かっていないという。同会の平野克博事務局長(62)は、「放射線の影響がないとは誰も言ってくれず、被爆者のような実体験もない。いつ遺伝的影響が出るか分からない恐怖と闘いながら、1世の訴えも引き継いでいく必要がある」とする。
被爆2世自身もさまざまな思いを抱いている。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が2016年に実施した全国調査では、「1世の体験を伝える活動に取り組みたい」と回答した割合は、全体の3割にとどまっている。その一方、放射線の影響などに不安や悩みのある人は6割に上った。
兵庫県は、被爆2世を対象にした無料の健康診断を実施しているが、受診者数は430人(19年)にとどまっている。
「兵庫県被爆二世の会」の会員で、父が長崎で被爆した高校教員の女性(65)=神戸市東灘区=は「病気になるたび、『被爆の影響かもしれない』との不安はある。2世も高齢化する中で、1世とともに援護を拡充してほしい」と訴えている。