コロナ禍で廃業決めた洋菓子店 救った畑違いの企業

2020/08/07 11:45

店を再開する鶴谷哲也さん(右)と、タッグを組むナカバヤシの前川希仁さん=姫路市内

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、いったんは廃業を決めた兵庫県姫路市の洋菓子店が、再出発することになった。支援の手を差し伸べたのは、写真アルバムの大手メーカー。畑違いの企業が救世主となった背景には、町のケーキ店が持つ“食べられる写真”の技術があった。(佐伯竜一) 関連ニュース 「ビールゼリー」「スイーツもりそば」再び 老舗ケーキ店が再出発 不人気だった老舗パン店の成功ストーリー 今では毎日新商品、人気は「キムタク」 「エスコヤマ」の小山さん コロナ後のお菓子作り、アイデア次々

 同市出身の鶴谷哲也さん(35)が営む「鶴谷洋菓子店」。姫路駅近くの繁華街の一角で、2016年に店を開いた。厳選素材を使ったケーキやエクレア、シュークリーム。近所の親子連れらが立ち寄り、人気を集めた。
 今年初めごろまでは順調に売り上げを伸ばしていた。しかし、新型コロナが直撃。客足が落ち、7人いた従業員には辞めてもらい、予約販売に絞った。4月以降の売り上げは7割減となった。並行して手掛けてきた仕出しも注文がやみ、日銭が入らなくなった。
 当時の手元資金は約500万円。持続化給付金も受け取ったが、家賃や材料などの経費で半年もたたないうちに消えてしまう。
 「売り上げが下がる見通しでは難しい」と金融機関には融資を断られた。商売仲間は次々、店をたたんでいく。妻子を抱え、「これ以上もたない」。長年修業をして構えた念願の店だったが覚悟を決め、別の仕事を探し始めた。
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 これに先立つ2月、アルバムの大手メーカー、ナカバヤシ(大阪市)の営業マンが店を訪ねていた。誕生日ケーキなどに子どもの写真を食用インクで印刷する高い技術に、同社の前川希仁さん(38)が着目。写真保存アプリと連動させる構想が浮かび、連携することで合意していた。
 「店を続けられなくなりました」
 緊急事態宣言発令中の5月、鶴谷さんから連絡があった。前川さんらはすぐに社内で話し合った。「鶴谷さんのケーキには家族層のファンが多く、なくすのは惜しい」「一緒にやれないか」。支援の枠組みを練った。
 7月、鶴谷さんは同社に入社。新設する食品関連の事業部に籍を置くとともに、店を移転して再開することになった。
 移転先は、JR姫路駅から北西約4キロにある姫路市田寺3の空き店舗。同社が資金を出して改装し、同じ店名で8月下旬にオープンする。原則予約販売で当面は鶴谷さんが一人で切り盛りする。
 「ケーキもアルバムも子育て世代の需要が多く、相乗効果を期待できそう」と前川さん。鶴谷さんは「まさかと思う形で店が残った。従業員には申し訳なかったが、お客さんにも『いつ再開するの?』と声を掛けてもらい力になった。丁寧な仕事をして、ファンを増やしたい」と意気込む。
 鶴谷洋菓子店TEL079・262・9653(8月中旬ごろに開通)
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