相次ぐ子どもの放置死どう防ぐ? 母親の孤独に目を向けて

2020/08/22 15:00

「状況の深刻さから声に出せない。そんな人の声を聴こうと学生たちに伝えている」と語る村上靖彦教授=大阪府吹田市、大阪大

 子どもの放置死が東京で相次いで発覚した。事件が凄惨(せいさん)であるほど「わが子にそんなことをするとは」「私たちとは違う人だ」と多くの人が目を背け、経緯を知る機会は少ない。虐待を止めることはできるのか。「母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ」の著者で、大阪大大学院人間科学研究科教授の村上靖彦さん(現象学)に聞いた。(竹内 章) 関連ニュース 虐待受けた子ども、脳機能低下 褒められても心に響かず 10円玉握り「おなかすいた」 コンビニで5歳女児保護 実母ら逮捕 頬に包丁当て「おしゃべりできませんか」 祖母が5歳孫を虐待

 東京都大田区の事件で24歳のシングルマザーは交際相手に会うために3歳長女を自宅に約1週間放置したとされる。独りぼっちの子育て、子ども時代に受けた暴力、会員制交流サイト(SNS)投稿などの加害者報道に触れるうち、「グループワークで出会った女性たちと重なって見えた」という。
■貧困や暴力
 村上さんは2014~17年、大阪市西成区で「MY TREE」という虐待当事者の母親の回復プログラムを調査し、現在も同区で子育て支援の調査を続けている。そこから見えてきたのは、本人の努力ではどうにもならないほどの貧困や暴力。「32年間楽しいと思ったことがない」と語る人もいた。
 「母親自身がサバイバー(虐待被害者)であることも多く、人格否定や孤独の中で幼少期を過ごした人もいます。虐待行動は親のSOSでありそれに応答しない限り行動はやまない」
 プログラムは10人ほどの参加者と3人のファシリテーターで構成。半年かけ約15回のグループワークや個人面談を重ねる。
 「母親自身傷ついていても、それに気づいていない。ただ変化を求めて参加した彼女たちの中には回復への第一歩がある」
■つながり直し
 周囲から断絶され、記憶や感情にふたをしていた母親たちが、これまで言えなかった経験を言葉にして聴いてもらう。埋もれた過去と現在をつなぎ直す作業から、回復に踏み出す姿を何人も目にしたという。
 「語り合い、聴き合うときに初めて成立する深い触発がある」
 孤立していた母親同士が作るつながりは、一人一人の過去とのつなぎ直しと連動し、周囲や社会へのつながりに連なるという。
 「つながりを作る力は回復する力。子どもとのつながり直しも同じ。そんな対人関係の力は家族や学校、児童相談所との関係再構築へと広がっていく」
■仲間が支えに
 プログラムの終盤では、グループでの経験や家族への思いを参加者全員が寄せ書きした冊子が渡される。受講終了後も冊子を読み返し、自己の肯定につなげる人もいるという。
 「『二度と会えないけど、心の中にとどまっている』『元気にしてんのか、と心の中に残っている』など、語り合った仲間がお互いの支えになっていた」
 疎外されてきた女性たちが、家族や社会の一員として踏み出す中で、これまでは八つ当たりしていた子どものいたずらを笑える余裕が生じる。「自然にそっち(暴力)に行かなくなった」と自身の変化を語る女性もいた。
 「生き方の様式が変わることで、暴力に頼らなくなる。母親の孤独を手当てすることが回復につながると信じている」

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