黒沢清監督、評価の点を分析「戦争下の日本中心にメロドラマ要素も」 ベネチア国際映画祭「監督賞」

2020/09/13 17:23

会議用アプリZoomで取材に応じる黒沢清監督(13日午後)

 世界三大映画祭の一つ、第77回ベネチア国際映画祭で神戸市出身、黒沢清監督「スパイの妻」が最高賞の金獅子賞に次ぐ銀獅子賞(監督賞)を受賞した。13日未明に届いた一報を受け、同日午後、黒沢監督が会議用アプリZoomを通じて記者会見を開いた。 関連ニュース 【写真】「スパイの妻」で主人公の邸宅として使われた旧グッゲンハイム邸 【写真】映画「スパイの妻」の一場面 ベネチア国際映画祭 黒沢清監督「スパイの妻」が監督賞を受賞 神戸市出身

 「本当に驚いた。コンペティション部門に選ばれただけでもラッキーで、受賞となるとそれはさらに時の運。最後まで運が味方してくれました」と黒沢監督は喜びを語った。
 映画は大平洋戦争開戦前に偶然、国の犯罪行為を知った夫婦が、正義感から世に明かそうとする物語。蒼井優さん、高橋一生さんが主演し、神戸を舞台に、主要な場面が神戸で撮影された。
 どういう点が評価されたのか、自身は「戦争下にある日本を物語の中心に据えながら、メロドラマの要素も組み立てられている。こうした日本映画はこれまであまりなかったので、その点が注目されたのでは」と分析。それには全くのオリジナル・ストーリーとして脚本を担当した東京芸大の教え子、濱口竜介さん、野原位さんの力が大きいとし、「最初に、何か賞を頂けると聞いたときは脚本賞ではと思った。本当にいい教え子を持った」と2人の労をねぎらった。
 映画の中では、夫の信念を支える蒼井優さん演じる妻聡子の存在が大きいが「戦時中という困難な時代、男はどうしても巻き込まれてしまう。流れに飲み込まれず社会を切り開いていく力があるのは女性ではないか」といい、その役割を聡子に託したと明かした。
 黒沢明、溝口健二、熊井啓、北野武ら、過去のベネチア受賞者と名前を並べることについては「みな、自分よりずっと若い頃に受賞している」と謙遜しながら、「日本映画の歴史の中で、世界との接点を持つことができたかも」と、その意味をかみしめていた。
 コロナ禍でベネチア入りを見送った黒沢監督。「後から振り返れば、印象深い経験になるかも」としつつ、「本当は現地に行って、審査員長の女優、ケイト・ブランシェットさんから直接、受け取りたかった」と、少し残念そうだった。
(片岡達美)

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