黒沢清監督、ベネチア銀獅子賞 神戸の洋館で撮影「一目ぼれ」
2020/09/14 22:34
受賞後の喜びを語った黒沢清監督=東京都内
ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた「スパイの妻」は、戦時中、満州で行われた日本軍の犯罪行為を告発しようとする実業家と妻が主人公。黒沢清監督が「一度はやってみたかった」と話す歴史ドラマだった。良心とは、正義とは、夫婦愛とは…。人間の尊厳にかかわるテーマが展開される。
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【写真】映画「スパイの妻」の一場面
ベネチア国際映画祭 黒沢清監督「スパイの妻」が監督賞を受賞 神戸市出身
「その後の日本、世界がどこに向かうのか、我々は知っている。そんな歴史にどう接するか、良識が問われる。気の抜けない撮影だった」。時代に翻弄される夫婦を丁寧な心情表現と、細部にまで気を配った場面作りで描いた。そうした制作姿勢も評価された。
過去に日本人監督の幾つかの作品が金獅子、銀獅子賞を受けた。多くは黒沢明監督の「羅生門」「七人の侍」、溝口健二監督「山椒大夫」「雨月物語」に代表される時代劇。男優賞の三船敏郎さんも時代劇に主演した。ヨーロッパの映画人らが西洋中心主義を反省し、異文化に価値を見いだそうとした時代だった。
そして北野武監督。金獅子賞作の「HANA-BI」(97年)は静ひつな映像の中に激しい暴力があり、西洋から見れば理解不能な異色作だった。銀獅子賞の「座頭市」(2003年)も様式美とバイオレンスが混じった時代劇だった。
しかし、今回の「スパイの妻」にはそうした異質な部分がない。欧米と同じ価値観に立った上での評価だった。黒沢清監督は日本映画の普遍的な力を世界に知らしめたと言えよう。
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また黒沢監督は、初めて出身地の神戸市を舞台にした。主要場面のロケは市内各所で行われた。
「建物に人格があるようだ」。試写会で同市垂水区の旧グッゲンハイム邸を管理・運営する森本アリさん(46)は目を見張った。邸宅は高橋一生さんと蒼井優さんが演じる夫妻の自宅で登場。ロケハンで訪れた黒沢監督の即決で決まった。神戸フィルムオフィスの松下麻理代表(58)は「一目ぼれだったのでは」と話す。
古い建物の風合いを生かしつつ保存に努めてきた森本さんは、「私たちの意思をくんでくれた」と誇らしげだ。映画では陽光に輝く床の傷など、建物の年齢をうかがわせるカットが随所に盛り込まれている。
貿易商の会社として使われた旧加藤海運本社ビル(同市兵庫区)は1936(昭和11)年の建設。これまでも数々の作品に登場した。同社総務課長の大塚臣介さん(44)は「社名がエンドロールに名を連ねる作品が大きな賞に選ばれたのは光栄。もっと多くの作品のロケ地になればうれしい」と話した。(片岡達美、井原尚基)