「小さな君」が芥川賞作家に 「令和のバクチク」に驚きと興奮

2020/10/07 19:50

小さな駐車場に止まるBUCK-TICKのツアートラック。その存在がコロナ禍でも音楽を楽しめるという高揚感をもたらしてくれる

 ロックバンドBUCK-TICKの名曲「Solaris」に、こんな歌詞がある。 関連ニュース 今田美桜さん激レア映像を発見 宮崎駿、木村拓哉、大谷翔平… 著名人の時間の使い方は 村上春樹作品にたびたび登場の図書館 揺らぐルーツ 

 「目覚めの朝遥か/夢で会えるね/小さな小さな君はやがて空になり/大きな大きな愛で僕を包むよ」
 「魔王」と称されるボーカルの桜井敦司さん(54)と、平成生まれで初めて芥川賞を受賞した作家の遠野遥さん(29)が親子だったことが7日に判明した。ともに言葉を紡ぐことをなりわいとする2人による初対談が同日発売の文芸誌「文藝」冬季号に掲載された。「小さな君」はやがて「芥川賞作家」になっていたことに、ファンは騒然としている。
 1987年にデビューしたBUCK-TICKはポップでメロディアスな曲調を基本にしながら、一風変わった歌詞やダークな一面も注目を集めた。なによりも、突き立てた髪や派手な衣装、化粧などが音楽業界を超えて社会全体に衝撃を与えて「バクチク現象」と呼ばれ、翌年には日本レコード大賞新人賞に輝いた。遠野さんが生まれた1991年当時はアルバム「狂った太陽」やシングル「JUPITER」などがリリースされ、人気の絶頂を極めていた頃。一時は低迷期も経験したが、オリジナルメンバー5人が一人も欠けることなくコンスタントにアルバムを発表し、ツアーを敢行してきた。
 BUCK-TICKの楽曲には、「密室」「夢幻」「原罪」「無題」といった漢字二文字の作品が多く、最新作では「忘却」がラストを飾る。また、遠野さんが文藝賞を受賞したデビュー作は「改良」で、芥川賞作品が「破局」。父子によるこの共通点も興味深い。
 コロナ禍の影響で一時ストップしていたレコーディングが終了し、BUCK-TICKはデビュー33周年となる9月21日に22枚目のオリジナルアルバム「ABRACADABRA(アブラカダブラ)」をリリースしたばかり。新作を引っ提げたフィルムコンサートも始まっている。生のライブではないものの、通常のコンサートツアーで使う音響機材をツアートラックに載せ、12月末まで全国各地を巡回。臨場感あふれる映像と、迫力のあるサウンドでファンを魅了している。
 とはいえ、ホールでは1席ずつ空けてソーシャルディスタンスを保ち、手指消毒に検温などを実施した上でのフィルムコンサート。通常のツアーでは各地を巡る遠征組も少なく、まだ心から音楽を楽しめる環境にはないのも事実。だからこそ、アーティストの写真やツアー日程が施されたツアートラックの存在が光る。小さなホールの小さな駐車場に現れたトラックが「まちにライブがやってきた」という高揚感を沸き立たせるからだ。
 昭和から平成を経て令和を迎え、メンバーは全員50歳を超えた。ボーカリストの息子は芥川賞作家になっていた。若く、新しいファンも増える中、新作はコロナ禍のうっぷんを晴らすかのような快作に仕上がっている。まだまだ続くであろう「令和のバクチク現象」は驚きと興奮に満ちあふれている。(大原篤也)

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