「新庁舎NO」明快な訴え浸透 「全市民に5万円」公約には壁 丹波市長選で新人当選

2020/11/19 06:30

万歳三唱で当選を喜ぶ林時彦氏(中央)=15日夜、丹波市春日町黒井

 15日に投開票された兵庫県丹波市長選で、自民、公明の推薦を受けた無所属現職の谷口進一氏(67)が、無所属新人で元丹波市議会議長の林時彦氏(66)に敗れた。争点になった市役所統合庁舎の整備は同市の積年の懸案だが、「市民の声を聞いて決める」と歯切れの悪い谷口氏に対し、林氏は「新しい庁舎は要らない」と公約で訴えた。新型コロナウイルス対策として打ち出した全市民への5万円給付案も大きな注目を浴び、明暗を分けた。(藤森恵一郎) 関連ニュース 加西病院「建設地を変更」 高橋市長、方針転換表明 「用地、25年初頭までに選定」 まるで「ツバメ団地」、軒下に50個近い巣 ふんよけの傘カラフルに 丹波篠山のゴルフ場 雇用促進、地域活性へ協定 丹波市とリクルート 28日にはセミナー

 2004年に旧氷上郡6町が合併し誕生した丹波市は、現在も旧町時代の庁舎を使って行政サービスを提供。谷口氏は、現在の分庁舎方式では維持管理費などの経費ロスが大きいとして統合庁舎の必要性を主張してきた。だが、建設候補地などを巡って旧町ごとの思惑が絡み、選挙戦で「庁舎の話をすれば票を減らす」(陣営関係者)と判断。積極的には言及しなかった。
 一方、建設会社社長の経験もある林氏は、「新庁舎建設には100億円がかかる」と独自に試算。「新庁舎は要らない」と主張した。さらに、新型コロナ対策として、全市民への5万円給付案を目玉公約に決定。インパクトを狙い、告示日の出陣式で突如表明した。
 8月から市内各地を回って市民の声を聞き、「有権者約5万3千人のうち、2万人とは話した」と自負。「高い」と不評の市指定ごみ袋の半額化など生活に直結する政策も打ち出した。支持を集めた理由について、「市民のニーズを聞いたからだ」と話す。
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 現職の谷口氏は、元兵庫県職員で但馬県民局長も務めた。市長に就いた後、職員との意思疎通の欠如、業務量増加に伴う職場風土の悪化などがある、と市議会で頻繁に問題視されてきた。地域でも谷口氏に対し、「上から目線」「冷たい」などの印象が広がっていたという。
 告示日の8日に行われた出陣式では、兵庫県の井戸敏三知事をはじめ、自公の国会議員、県会議員、近隣市町の首長ら13人の来賓が激励のあいさつをした。
 本来なら盤石の態勢で組織戦を展開するが、「2期目に挑む現職は強いと信じ込み、『1万票差でも勝てる』と緩みがあった」と陣営関係者は明かす。「ばらまき」との批判もあった林氏の5万円給付案にも、終盤になってようやく数カ所の街頭演説と動画投稿サイト「ユーチューブ」で反論した。結果、林氏の公約は支持を広げ、自民関係者が「完敗」と認める3227票の差を開けられ、落選した。
 投票率は、林氏の地元、春日地域が68・6%だったが、谷口氏の柏原地域は60・9%。公明市議は「林氏が『どぶ板』でくまなく具体的な公約を訴えたのに対し、谷口氏は選挙ビラも抽象的。選挙戦略のまずさがあだとなった」と分析する。
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 今回の市長選について、井戸知事は17日の定例会見で「5万円の支給という政策で投票行動が左右されたのなら遺憾」とし、「丹波の未来をどうしていくのか、適切な選択がされたのだろうか」と疑問を呈した。
 林氏は、5万円給付について「5月に一度、市に提案した。選挙のために思いついたことではない」と説明。その上で「できれば12月に間に合うようにしたい」と話す。しかし、市長選と同日に投開票された市議選(定数20)の当選者のうち、統合庁舎を必要と考える人は少なくとも12人はいる。
 5万円給付に必要な財源約35億円について、林氏は、市が12年度から積み立ててきた「庁舎整備事業基金」(20年度末見込みで約24億円)や、市のコロナ対策の未執行分などを充てる考えだが、議会の反発が予想される。当選した林氏の前途も多難だ。

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