男性の育児休業「取るだけ」にならないポイントは

2020/12/07 17:30

離乳食を与える男性。次女の成長を日々実感する=神戸市垂水区

 男性の育児休業促進に向けた機運が高まっている。小泉進次郎環境相による「育休」取得が話題となったほか、菅義偉首相は男性が育休を取得しやすくする制度の導入を表明。男性の育児参加に追い風が吹く。ただ、育休中の男性が実際には積極的に家事や育児をしていない「取るだけ育休」になってしまうことも。必要なスキルを習得したり、役割分担を話し合ったりするなど「取るだけ」にならないため準備をしておきたい。(佐藤健介) 関連ニュース 「キャリアに傷ついてもいいのか」「時短言い出せない」 育休男性が直面する「パタハラ」 中村アン、タキマキ…新たな美の象徴「筋肉女子」 「コロナ離婚」外出自粛で増加? 対策のコツは「私は○○してくれたらすごく助かる」

 おかゆをスプーンですくい、3月に生まれた次女の小さな口にそっと含ませる。満足そうな笑顔に「絆が深まる感覚」と話すのは会社員の男性(39)=神戸市垂水区=だ。1年間の予定で育休を初めて取得した。「授乳以外は何でもする」といい、出産後の沐浴から風呂の世話、着替えなどは夫の日課。ほかにも掃除や買い物、朝ご飯の用意など多くの家事をこなす。
 長女を出産後にホルモンバランスを崩した妻の女性(37)。今回は「そばにいて一緒に育児をしてほしい」と希望し、男性は育休取得を決めた。
 長女の時は「手を滑らして落としてしまうのが怖い」と風呂の世話をあまりしなかった男性だが、女性が手本を見せるなどし“スキル”が向上。妻が度々掛けてくれる「ありがとう」にやる気も鼓舞され、家事全般で積極的に参加するようになった。「互いをいたわる気持ちが増した」と男性は感じている。
 一方で、育休中の男性が育児と家事に消極的なケースも少なくない。
 「育休を取ってもだらだら。結局、家のことは私がやった」「家事をしてこなかったのでスキルが足りない」-。子育て支援アプリ「ママリ」を運営する「コネヒト」(東京)と日本財団が昨秋、育休を取得した夫の妻を対象に家事・育児参加について調査したところ、不満の声が上がった。
 調査結果を踏まえた「男性の『とるだけ育休』を防ぐための提言」によると、育休中の夫が家事・育児に関わるのは「1日2時間以下」が3割以上。スキルの未熟さや意識の低さがうかがえたという。ただ「3時間超5時間以下」「8時間超」もそれぞれ約2割いて、「悩みや大変さを共有し、孤独でなくなった」「育休中に自信がついたようで職場復帰後も育児に参加している」との声もあった。
 提言では、男性の育休を「取るだけ」に終わらせないため、父親にとってのメリットを理解する▽家事や育児の全量を把握してやり方を確認する▽夫婦の役割分担を話し合う-といったポイントを示す。
 コネヒトは7月、男性の育休をテーマにしたガイドブックを作成。出産前に夫婦で話し合っておくべきことや、父親が家事と育児の基本スキルを身に付ける方法などを、マンガや子育て経験者の声を交えてまとめている。
 出産直後は、睡眠不足やホルモンバランスの崩れなどで、産後うつに陥ることもある。母子間の愛着形成がうまくいかず、育児放棄や成育不全の恐れも。兵庫県産科婦人科学会会長で、パルモア病院(神戸市中央区)の山崎峰夫院長は「母親を孤立させず見守りながら休んでもらうのが大事。そのために、父親が進んで家事をこなすのは当然だ。また、夜中の授乳の後、父親が赤ちゃんを移動させてあげれば、母親はすぐに眠れるようになる。ちょっとした気遣いがサポートになる」と助言している。

■男性の育児休業促進 国では義務化の議論も
 厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2019年度の男性の育児休業取得率は7・48%で、前年度より1・32ポイント増えた。しかし、女性の取得率(前年度比0・8ポイント増の83・0%)には程遠く、10カ月以上取得した割合(18年度)は女性の約70%に対し、男性は3%程だった。
 こうした男性の育休取得率低迷や、昨年の推計出生数が過去最少の86万4千人となった「86万ショック」を背景に、政府は、男性が家事や育児に参加しやすい環境づくりを急ぐ。
 育児休業法に基づく育休期間は原則として子どもが1歳になるまで(誕生日の前日)。保育所に入れない場合などは2歳になるまで延長できる。雇用保険による育児休業給付金の支給額は、最初の半年は賃金の67%で、それ以降は50%。政府が今年5月に閣議決定した第4次少子化社会対策大綱は、育児休業の分割取得や給付金の在り方、社員に取得を促す企業への支援を検討するとし、男性の育休取得率を「2025年に30%」とする目標を掲げた。
 取得義務化の動きもある。自民党の「男性の育休義務化を目指す議員連盟」は、企業が有給休暇のように男性社員にも育休を与える仕組みを提言し、義務化に向けた法制度の検討に入った。しかし、日本商工会議所の調査によると、人手不足に悩む中小企業では約7割が義務化に反対。10月に開かれた厚労省労働政策審議会の分科会では、労使双方の委員から義務化に反対する意見が相次いだ。

 次回の「こそあど」は2月7日に掲載。身の回り(ここ、そこ、あそこ、どこ)にある子育ての話題を記者が深掘りします。取り上げてほしいテーマ、気になる出来事などを教えてください。メール seikatu@kobe‐np.co.jp

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ