先生の暴力 傍観の果て(2)ルール 消えた3度の体罰処分歴

2020/12/10 09:41

兵庫県教育委員会が指定する履歴書

 柔道部顧問の男(50)=懲戒免職=には体罰で3度の処分歴がありながら、現場で共有されなかった。当日から検証する。 関連ニュース 西宮市で新たに男女9人の感染確認 11日 尼崎で男女6人感染 新型コロナ、11日 県立芸術文化センター職員が新型コロナ感染 公演は通常継続


 9月25日午後4時ごろ、宝塚市立長尾中学校の武道場。冷凍庫のアイスキャンディーが減ったことを男が部員らに問いただす。柔道未経験の40代男性副顧問も誘われて同行した。生徒2人に疑いが浮上し、1人を男が武道場で、もう1人を副顧問が階段踊り場で聴取する。しばらくして副顧問が武道場から響く怒声に気づいた。

 その時、副顧問は男の前任中学校であった取り決めを知るよしもない。
 男が生徒と2人きりにならないよう個別指導には必ず別の教員が立ち会うという「ルール」。暴力を振るったら制止できるように監視する立ち位置も決めていた。
 きっかけは2011~13年、前任校で問題化した3度の体罰だった。【1】柔道の試合場で他校に暴言を吐いた生徒の顔を平手打ち【2】態度が悪かった生徒を押し倒して顔を踏み、蹴りつけて口を切る【3】生徒指導中にふざけた生徒に頭突きをして鼻を折る。
 暴力は明らかにエスカレートしていた。再発を危惧した前任校の校長がルールを作り、本人にも忠告した。それがいつ消えたのか。

 午後4時半、男は生徒1人が無断でアイスを食べたと認めると部員約10人の前で投げ始める。背負い投げ、払い腰…。どれも受け身を覚えたての初心者には危険な技だ。生徒が謝っても聞かない。「今ごろ言っても許さん」。副顧問は別の生徒1人を連れて武道場に駆けつけ「体罰になる」と思ったが、激しいけんまくに止められなかった。

 神戸新聞が市教育委員会に情報公開請求し、約1カ月後に出た文書がある。
 12年度から今年10月まで過去9年間に報告された教員体罰32件の内訳だ。名前や学校名は伏せられ、一部の関係者しか知らない。
 実は、多くの処分履歴は異動時に事実上消える-。県教委が指定する教員の履歴書には懲戒処分(免職、停職、減給、戒告)を記すが、理由を書く欄はない。また、懲戒より軽い「訓告」などは紙面上、伝えない仕組みになっていた。
 16年春に長尾中に異動した男。当時の校長が前任校から受け取った処分履歴は「減給」だけ。生徒の鼻を折ったという内容はなく、生徒の顔を蹴るなどした2件の訓告はなくなった。ルールも異動時期に解消したとみられる。
 この結果、長尾中は過去の詳細を知らないまま、男に柔道部を任せる。片や市教委も「部活動の顧問は学校が決める」として関知しなかった。体罰を警戒する人はほとんどいなくなった。
 過去9年分の体罰32件のうち懲戒処分は7件あり、2件は今回の事件を含めて男が受けたものだ。しかし、ほか5件の教員が今も部活動を指導しているかどうか、市教委は把握できていなかった。
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