ため池で“バカンス” 東播磨へコウノトリ続々飛来

2020/12/12 16:00

20羽前後の集団で飛来が続いているコウノトリ=加古川市志方町原、皿池(原地域づくり協議会提供)

 毎年秋冬に兵庫県の東播磨地域への飛来が恒例となったコウノトリ。今季はため池を中心に一度に20羽前後の目撃が続き、範囲も広がっている。生息拠点の但馬地域は餌が減る時期だが、ため池は水が抜かれて魚などが見つけやすく、縄張りを持たない若鳥にとっては絶好の“バカンス先”に。定着、繁殖への期待が高まるが、継続的な餌場確保という大きな課題が残る。関係者は「まずは身近な水辺に関心を向けて」と話す。(若林幹夫) 関連ニュース 親子で争い、殺すことも…ご存じ?コウノトリの意外な“横顔” 宙に浮くピサの斜塔!? ツバメ巣作り、46年間増築中 2万羽に1羽 民家の庭に白いスズメ

 東播磨では今季、8月18日に稲美町の田んぼで1羽が目撃されたのを皮切りに飛来が続く。10月1日には加古川市の里池で8羽、同7日には稲美町の下棒池で18羽と、10月に入ってから集団での飛来が相次いだ。同時期には、神戸市西区の上空でも10羽以上が旋回する様子を野鳥写真家が捉えた。
 東播磨でため池を活用した地域づくりを進める「いなみ野ため池ミュージアム運営協議会」(事務局・東播磨県民局)によると、2006年度から年数羽ずつの目撃が続き、18年度には初めて2桁に。今季は12月7日時点で、既に19年度の倍以上となる計76羽に上る。個体を識別できる足輪から、今年巣立ったひなを含む若い個体が中心という。
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 コウノトリは野生復帰の取り組みが進み、野外で暮らす個体数は今年初めて200羽を超えた。東播磨のため池では、稲刈り後に農業用水を抜く「かいぼり」が行われる。兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園(豊岡市)の大迫義人エコ研究部長は「若い個体は餌場を求めて飛び回る」とし、水深が浅くなったため池は若鳥にとって手頃な餌場となっている。
 さらに10月ごろから、郷公園の公開ケージで飼育されている展示用個体への給餌がバックヤードで行われるようになり、野外から“横取り”できなくなったことも影響したとみられる。
 食物連鎖の頂点に立ち、大量の生き物を食べるコウノトリは、生態系の豊かさを示すシンボル的な意味合いも大きい。同運営協議会では16年、人と自然が共生する地域づくりを目指してプロジェクトを発足。郷公園の研究者をアドバイザーに招き、餌場の確保を進めてきた。高砂市阿弥陀町のため池では改修の際に浅瀬を設け、近くの水路に魚道を増やすなどした。
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 定着への期待は膨らむが、飛来は秋から冬にかけてに限られている。滞在が短期になるのは餌場がなくなってしまうためだ。営巣、繁殖を本格化させるのは1~3月。但馬では、水生生物がすみやすいよう、12月ごろから田んぼに水を張る「冬季湛水(たんすい)」で湿地を確保。さらに農薬を使わない米作りが進められている。
 一方、東播磨のため池では、冬の終わりから田植えに向けて水がためられる。無農薬は手間がかかり、高齢化、担い手不足が課題の農家にとっては簡単に取り組めない。ひながふ化し、最も餌を必要とする夏場に向けて餌が取りにくくなるのが現状だ。
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 同運営協議会が作ったプロジェクト実施計画は、長期目標として定着を掲げ、ため池の環境改善で生態系を豊かにし、造成する浅瀬の拡大も掲げる。ただ、ため池だけでは限界もあり、田んぼの水をいったん抜いて乾かす「中干し」時期にも湿地を保てるよう、田んぼの一部をビオトープ化するなど農地の整備も求められる。
 11月には、加古川市神野町神野に同市内としては初の人工巣塔が設けられ、これで東播磨の全3市2町に設置された。同運営協議会の担当者は「毎年飛来するということはポテンシャルは高いはず。巣塔設置や小学校の環境学習の題材にするなど、まずは地域の機運を高め、取り組みを広げていきたい」とする。
■保護活動の拠点「但馬」は繁殖進み飽和状態
 自然環境や稲作の変化で国内の野外で暮らすコウノトリは1971年、いったん絶滅した。最後の生息地となった兵庫県豊岡市で保護増殖の取り組みが進み、2005年から試験放鳥が始まった。今は毎年、野外でのふ化が続き、221羽(10月30日時点)に達している。
 コウノトリは親子でも餌の取り合いになるほど縄張り意識が強い。北海道から沖縄まで全国で目撃され、大陸へも移動するなど行動範囲は広く、特に0、1歳の幼鳥ほど餌を求めて遠方へ飛んでいく習性がある。
 兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園の大迫義人エコ研究部長は「野外の個体数が増えたことで、餌場を見つけた個体と一緒に行動する数も多くなり、東播磨地域で集団になっているのでは」とみる。
 生息拠点の豊岡盆地を含む但馬地域で生息できるコウノトリは、60羽ほどが最大といい、近年は飽和状態が続いている。繁殖地は京都府北部や鳥取、島根県など日本海側で広がり、今年は栃木県小山市でも初めて巣立ちが確認された。
 大迫エコ研究部長は「野生復帰のプロジェクトを進めてきた兵庫県内で、繁殖地の拡大が必要」と指摘。東播磨は餌場の継続に課題があるが、「環境が整えばコウノトリが教えてくれる」と取り組みを見守っている。

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