親子3代、創業113年 野球カステラ老舗閉店へ

2020/12/17 15:00

12月末で手焼き煎餅店「楠堂本家」を閉める牟礼健二さん、延江さん夫妻=神戸市兵庫区東山町1

 神戸市兵庫区の東山商店街にある手焼き煎餅の老舗「楠堂(くすのきどう)本家」が、12月末で店を畳み、創業113年の歴史に幕を下ろすことを決めた。店主の牟礼(むれい)健二さん(79)は50年以上、神戸名物「野球カステラ」を焼き続けてきたが、重い焼き型を振るうことに体の限界を感じるようになった。30日が最終営業日となる。(長谷部崇) 関連ニュース 【写真】焼きたては外はサクッ、中はフワフワ。楠堂本家の野球カステラ 【写真】「楠堂本家」の店構え 神戸の隠れた名物 野球カステラのルーツを探る

 健二さんの祖父・元治さんは若いころ、神戸駅近くにあった手焼き煎餅店「楠堂」で修業。湊川で店を出すときにのれん分けを許され、後に本家を継いだ。戦前はダイコンやニンジンの形をした「八百屋」というカステラを焼いていたという。健二さんは高校卒業後に母と店を切り盛りし、70歳手前まで現役だった元治さんや店のベテラン職人から焼き方を学んだ。
 同店の野球カステラは、グラブ、バット、ボール、マスク、優勝旗など、野球のプレー人数と同じ9種類ある。昔は「落とし焼き」「スポーツ焼き」などと呼んでいたが、健二さんが30代のころ、「野球カステーラ」と名付けて他店にも広まったという。
 店は1995年の阪神・淡路大震災で大きな被害を受け、店の奥にあった焼き場を店頭に移し、以来「実演販売」の形を採るようになった。卵、砂糖、小麦粉、牛乳、蜂蜜でつくる生地を一晩寝かせ、砲金製の分厚い焼き型に流し込む。四つの型を横一列に並べ、裏表を返しながら、火加減がわずかに違う三つのこんろで順に熱する。
 神戸の野球カステラを研究する神戸市職員の志方功一さん(42)は「焼きたては外はサクッ、中はフワフワ。冷めても弾力があり、しっとりしている。野球カステラといえば楠堂本家、という地元ファンは多い」と解説。志方さんが野球カステラの研究を始めたのも、同店に出合ったのがきっかけだった。
 ただ、焼き型は一つ重さ6キロもあり、80歳を目前にした健二さんにとっては肩や腰への負担が大きく、以前のように一日焼き続けることができなくなった。昨年末には左肩の腱板(けんばん)断裂が見つかり、ドクターストップもかかったという。最近は営業日を水、土曜の週2日に減らし、両肩をテーピングして午前中だけ焼くようになっていた。
 結婚して53年、一緒に店頭に立ってきた妻の延江さん(76)も「『もう少しだけ、もう少しだけ』と無理を続けてきたけど、今が閉めどきと思う。ようがんばってくれた」と気遣う。閉店を知って、長年常連客だったおばあさんが泣きだしてしまったり、「幼稚園の時からファンでした」と女性客が手紙を持ってきてくれたりと、惜しむ声も広がっている。
 12月は水、土曜と、28日に店を開ける予定。野球カステラは130グラム330円、230グラム550円(いずれも税込み)。たくさん焼くことはできず、少量しか販売できない。昼すぎには売り切れる。予約は受け付けていない。楠堂本家TEL078・511・0513(営業日のみ)
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 野球カステラは神戸で1世紀にわたる歴史を持ち、かつては焼く店が市内に100店前後あったとみられるが、現在は約10店まで減少。職人の高齢化や後継者不足が課題になっている。

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