障害者らの自立へ 就労支援に「eスポーツ」
2020/12/26 16:00
作業の合間にコンピューターゲームを練習する就労支援施設の利用者=明石市和坂、オフィスカレッジ
コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」を通して、引きこもりや障害がある人たちの社会参加を促す取り組みが広がっている。五輪種目への採用も視野に入るeスポーツ。「利用者が自信を持つきっかけに」と、兵庫県内では明石市の就労支援施設がゲームに集中できる環境を整え、障害者向けの大会も開くなどして競技生活を支えている。(川崎恵莉子)
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JR西明石駅前の雑居ビルにある就労継続支援B型事業所「オフィスカレッジ」(明石市和坂)。精神、知的障害がある男女約80人がパソコンを使ったデスクワークやプログラミング、ホームページの作成などに携わる。
その事業所に昨年秋、「eスポーツクラブ」が創設された。一室にゲーム専用機器やモニター20台が並び、約20人の利用者が日々、作業の合間に練習する。
「家に引きこもってゲームに熱中し、高額の課金などで貯金や障害者年金を使い切ってしまう人もいるんです」と、施設を運営する一般社団法人「カレッジ」の竹本久保(ひさやす)代表(64)。ならばなぜ、就労支援にゲームなのか-。
竹本代表は「開かれた空間(施設)でプレーすることで他人の目が注がれ、さらに他のプレーヤーとのコミュニケーションが生まれる」と狙いを話す。職員と利用者がゲームの到達目標や練習時間を設定し、やり過ぎない仕組みにした。
「今の技、よかったんちゃう」「うわ、やられた」-。格闘技系ゲームの最中もマイクを通してやりとりする。練習後はお互いのプレーについて意見を交わす。
利用者のおよそ8割が、クラブ創設を機にゲームを手に取った初心者。eスポーツ歴1年目の男性(56)は「これまで1人でデスク作業をこなすだけだったが、eスポーツで他の利用者との交流が増えた」。週1回クラブに通う女性は「頑張った結果が分かるのがうれしい。メリハリをつけてゲームをすることで息抜きにもなる」と笑みをこぼす。
職員の田中喜陽(よしあき)さん(28)は「最初は10分間も座り続けられなかった利用者が長時間、集中できるようになった」と効果を語る。
竹本代表は昨年10月、「障がい者eスポーツ協会」を設立。今年7月には他の事業所の出場者も集め、初の大会開催にこぎ着けた。
「ゲームに熱中すること自体は悪いことではない」と語る竹本代表はeスポーツを介し、障害のある人の社会参加の促進を願う。「大事なのはゲームを通じ、個人が持つ優れた能力や感性をどう引き出すかだ」
◇ ◇
【eスポーツ】「エレクトロニック・スポーツ」の略。シューティング、格闘、パズル、サッカーなどさまざまなジャンルがある。欧米や中国、韓国を中心に人気が高く、インドネシアで2018年にあった「アジア競技大会」で正式種目に採用。高額な賞金を懸けた大会も多く、20年の世界市場は1400億円を突破する見込み。国内市場は約60億円、約200人がプロゲーマーとして活躍する。
■国内ゲーム人口拡大4793万人
今や世界中で人気を集めるeスポーツだが、日本では「ゲームはスポーツではない」と否定的なイメージが根強いのが現状だ。
ゲームメディア事業を手掛ける「KADOKAWA Game Linkage(カドカワ・ゲーム・リンケージ)」(東京)によると、2019年の国内ゲーム人口は家庭用ゲームやパソコン、携帯アプリを含めて4793万人。新型コロナウイルスによる外出自粛で裾野は広がっている。
eスポーツを視聴する国内ファンも急増している。18年の約382万人から20年は1・5倍の約602万人に。23年は約1215万人が見込まれる。
25都道府県に支部を置く日本eスポーツ連合(東京)の浜村弘一副会長(59)は「年齢や障害の有無に関係なく誰にでもチャンスがあるのが魅力」と語る。
他方、韓国で02年、24歳の男性がオンラインゲームを86時間続けて死亡し、ゲームのやり過ぎで生活に支障をきたす事態も。19年5月、世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を新たな依存症に認定した。
兵庫県eスポーツ連合の金井庸泰副会長は「受ける恩恵と、のめり込みすぎる習慣をコントロールできることが、よりeスポーツが広まる鍵になる」と話す。