仮眠挟み24時間以上働く医師たち、心身すり減らす攻防 コロナ重症病棟の今(2)
2020/12/28 00:00
臨時病棟のA病棟では、重症患者の命を救うため大勢の職員が働く=26日午前、神戸市中央区港島南町2、同市立医療センター中央市民病院
「痛い」とも「苦しい」とも訴えず、静かに眠っている患者。神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)の臨時病棟は25日、人工呼吸器を着けた新型コロナウイルス患者が過去最多の10人に上った。鎮静剤が投与された重症者に意識はないが、体内は懸命に抵抗を続けている。声なき声に耳を澄ませ、治療に当たる医療従事者も心身をすり減らし、攻防を続けている。
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■重症用A病棟
臨時病棟2棟のうち、重症者用のA病棟には、7床ずつ並んだ個室に挟まれるようにスタッフステーションがある。中等症用で大部屋がメインのB病棟と隣り合うが、規模ははるかに大きい。全14床の様子を映し出す画像や、患者の計測数値がリアルタイムで壁などのモニターに表示され、医師が治療方針を指示し、病室を回る看護師が異変を報告する。ステーションに近い病室には最重症の患者が入り、窓越しに見守れる。
交代で、防護服を着た看護師らが病室に入っていく。暑く息苦しい中、血圧や脈拍、呼吸状態を示す数値だけでなく、ナトリウムやマグネシウム、酸素の血中濃度など、大量のデータの推移を分析しながら薬剤や機器を微調整する。「次に患者に何が起こりそうか、予測する力が問われる」と藤原のり子看護部長。職員同士が会話する声は、感情をそぎ落としたように硬い。
■難航した挿管
取材した25日は、朝は重症病床残り1床でスタートしたが、昼すぎに転院があり、満床となった。運ばれてきた女性患者は呼吸状態が悪く、すぐさま人工呼吸器の装着が決定。気管に挿管されると当面鎮静剤で眠ることになるため、病棟の外にいる親族と画面越しに短時間会話が交わされた。「頑張ってよ」「うん」。励ましに、女性は苦しげに応えた。
気管挿管は難航した。切開による気道確保の可能性もちらつく中、多くの職員がサポートし、20分以上かかって成功した。「コロナ患者の挿管の中で最も危険だった」。急きょ応援に入った当直医が後に語った。
その直後、別の病院からまた転院の依頼が入る。ベッドがない。どの患者をB病棟に出すかで医師と看護師が強い口調で議論する。「A病棟に次の1床をどう作るか」は、何度となく議題に上った。
■24時間以上勤務
未明のA病棟には、「ピピピ」というかすかな機械音と、クリックする音だけが聞こえる。職員は、日勤帯の23人に対し、夜勤は15人と少ない。照明が落とされた中、防護服を着た看護師が患者のケアに回る。
誰も見ていない病室で、患者の脚をそっと両手で持って曲げ伸ばしする看護師がいた。人工呼吸器が外れたときに少しでも早く社会復帰できるようにしているのだと別の看護師に教えられる。30代の男性看護師は言った。「命を任されているから」。真摯(しんし)に患者と向き合う姿に、ただ頭が下がった。
朝になり、引き継ぎで職員があふれる。静かに眠る患者が映ったモニターとのギャップが際立った。早晩A病棟の重症者があふれ、B病棟にも入れなくてはならなくなるかもしれない。
女性の当直医に「もう満床だから受け入れられない、と言うことはできないのか」と尋ねると、驚いたような顔で一瞬、間が空いた。「ここが取らないって言ったら終わりでしょ」
彼女は25日朝から、仮眠を挟んで24時間以上働いた。(霍見真一郎)
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