震災の記憶次代へ 息子失った女性の人生、絵本に
2021/01/18 18:30
絵本「笑顔の向こうに」で絵を担当する阿部玲那さん(左)と石田麻実さん=兵庫県立松陽高校
兵庫県立松陽高校(高砂市曽根町)で防災などの課外活動に取り組む生徒たちが、阪神・淡路大震災で1歳の息子を失った女性の人生を題材に、絵本づくりを進めている。生徒自身も遺族の思いや被災後の道のりを初めて知った。震災の記憶を次代へ引き継ぐため、完成後は小学校や保育園などに贈る予定だ。(千葉翔大)
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絵本で紹介するのは、帰省先の同県西宮市で被災した高井千珠さん(59)=同市。当時1歳半だった長男の将(しょう)ちゃんは、地震で倒れたたんすの下敷きになり、亡くなった。
同校では毎年、地域防災の担い手を育成する「高校生防災ジュニアリーダー」を生徒から募集。2020年度は、3年の内田愛梨さん(18)と2年の溝口涼太郎さん(17)が昨年夏から絵本の検討を始めた。
指導する北川欽一(よしかず)教諭(42)が知人を通じて知り合った高井さんに話を聞き、その様子を映像で見た溝口さんは「どこにもぶつけようのない怒りや悲しみを思い知った」と振り返る。
震災20年が近づく14年には高井さんの震災後の歩みや将ちゃんと双子の妹への思いが歌詞となり、「笑顔の向こうに」という曲が制作されている。生徒たちは、そのCDジャケットに同封されたミニサイズの絵本を参考にした。
さらに、被災した街の様子を描いたり、非常持ち出し袋の中身を考えるページも挿入したりすることで、減災について学べる展開にしたいという。絵本は20ページで、曲と同じタイトルに決めた。
作中、将ちゃんを亡くした場面で「そばに行ってあげられなくてごめんね」と漏らす高井さん。生きる意味を見失うが、そばには将ちゃんの双子の妹がいてくれた。「あなたの笑顔の向こうに、しょうくんの笑顔も感じることができた」。絶望や後悔にさいなまれるが、悲しむことが将ちゃんを思う方法ではない。失意の底でも懸命に生きることで、将ちゃんと妹が笑顔になると気付く-という内容だ。
絵は2年の美術部員2人が描く。線画を担う阿部玲那さん(17)は「どう描けば、小さな子どもたちに伝わりやすいのかを意識した」。色彩担当の石田麻実さん(17)と話し合い、幼児にも親しみを持ってもらえるよう、丸みを帯びた絵にするなどの工夫を凝らす。
3月下旬までに計約100冊の完成を目指し、高砂市内の小学校や保育園などに寄贈する。高井さんは「震災後に生まれた生徒さんたちが、必死に伝えようとしてくれている。若い人なりの言葉や感性で、阪神・淡路大震災の記憶をつないでほしい」と背中を押す。
【特集ページ】阪神・淡路大震災