マイウェイ汀の物語 1・17から3・11へ(1)プロローグ
2021/02/14 13:00
【幼少期】芦屋川沿いで撮影された小島汀さんと、父謙さんの写真(小島汀さん提供)
■東北が好き、魅力伝えたい
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今年の「1・17」は熊本で迎えた。
3歳のとき、阪神・淡路大震災で父親を亡くした小島汀(おじま・みぎわ)(29)=兵庫県芦屋市=が、この日に兵庫にいないのは初めてのことだ。
これまでは神戸・三宮の東遊園地で、追悼行事に参加してきた。モニュメントの銘板には父の名前が刻まれている。
震災から26年の日曜日。汀は、熊本市内の老舗デパートで開かれていた「東北六県の物産と観光展」で、仕事に励んでいた。
「いらっしゃいませー」
「東北のおいしいもの、ご用意しております!」
◇
汀は関西大を卒業後、結婚式をプロデュースする「ウエディングプランナー」として働いた。
退職したのは昨年2月。入社5年目で「この先、自分は何がやりたい?」と考えるようになっていた。
心に浮かんだのは、東日本大震災のボランティアでつながりができた東北のことだった。
大学時代から何度も足を運んだ岩手には、汀が「パパ」「ママ」「先生」と呼んで慕う人たちがいる。
東北が好きだ。人も、自然も、食べ物も。これからもずっと、東北とつながっていたい-。そう思った。
転職先に決めたのは、東日本大震災の復興支援を掲げる会社「東北わくわくマルシェ」(大阪市北区)。百貨店の催事で東北の物産を販売し、インターネット通販も手掛ける。新たな世界に飛び込んだ。
◇
昨年11月。汀たちは、「ジェイアール名古屋タカシマヤ」で開かれた「大東北展」に出店していた。
店頭に並べるのは、宮城の「牡蠣(かき)の潮煮(うしおに)」、牛タンがたっぷり入った「ラー油」、福島のモモのジュースなど約80種類。
東日本大震災で蔵が全壊し、一昨年に再建した宮城の酒蔵の純米吟醸や、津波に襲われた洋菓子店のプリンも人気を集め、レジには行列ができた。
翌12月は四国へ。1月は正月明けから27日まで、福岡、熊本、大分の百貨店を順番に回った。
目が回るほどの忙しさだが、「この仕事に引かれたのは、自分が足を運んで、いろんな地域の人に、東北の魅力を伝えられるから」と汀は言う。
物心ついたときから「震災遺児」。使命感とか、被災地のためとか、以前の自分は肩に力が入っていた。大好きな東北のファンを増やしたい-。自然体でそう言えるようなったのはやっぱり、東北のおかげだ。
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小島汀さん(連載本文敬称略)の人生の転機となった東日本大震災から間もなく10年になる。汀さんが東北とつながって生きようとする理由は何なのか。「1・17」から始まる彼女の「マイウェイ」をたどってみたい。(中島摩子)
■【動画】汀の物語 二つの被災地を生きる理由