文豪の今日性と豊かな人間性を描いた「やさしい漱石」 著者の西村好子さんに聞く
2021/03/28 11:33
「この本が漱石文学への扉になれば」と話す西村好子さん(撮影・坂井萌香)
近代日本を代表する作家・夏目漱石。教科書などの写真の印象か、愁いを帯びた表情が思い浮かぶ。ところが、神戸女子大嘱託教員、詩人の西村好子さんの新刊「やさしい漱石」からは、甘いものに目がなく、小さな花に心を寄せる文豪の姿が立ち現れる。
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三十余年にわたって研究を重ね、漱石を「日本語のプラットホーム(土台)を、正岡子規とともに作り上げた人」と評する。それにより、漱石が明治・大正期に執筆した作品を、現代の私たちも時を超えて楽しめる、というわけだ。また「登場人物らの『視点』というものを確立した。そのことで、読み手が物語の中にすっと入っていける」と話す。
本書は地元の文芸誌での連載などを収録。中でも目を引くのが、漱石と兵庫県の明石、神戸との関わりを記した章だ。1911(明治44)年、明石・中崎公会堂のこけら落としに合わせ、漱石は現地入り。「道楽と職業」の題で、千人を超える聴衆を前に講演した様子がつぶさに描かれる。神戸については、平野町(神戸市兵庫区)の祥福寺で修行していた僧らとの文通を介し、晩年の思想を掘り下げていく。
一方、東京帝大での教員生活にも着目。学生から講義への不満が相次いだことに触れるなど、多角的に漱石を見つめた。さらには子規との親交にも紙幅を割き、句作も多数、紹介している。
研究生活を通じ、漱石を巡る文献の難解さが気に掛かり、手に取りやすい本を心がけたという。「やさしい漱石」という書名には、その思いと、残された俳句などからうかがえる繊細で「優しい」人柄を重ねたそうだ。
人物描写が魅力の「坊っちゃん」。倫理の問題を突き詰める「こころ」。自伝的な性格を持つ「道草」は「人の“居場所”が主題で、今の人にも通じる点が多いのでは」。明治の文豪の今日性と豊かな世界を、広く知ってほしいと願う。
(新開真理・文化部)
(「やさしい漱石」は不知火書房・2420円)
【にしむら・よしこ】 1947年佐賀県生まれ、神戸市で育つ。大阪大大学院博士課程単位取得退学。著書に「寂しい近代-漱石・鷗外・四迷・露伴」など。神戸市在住。