心浮き立つほんまものの美 兵庫県立美術館でコシノヒロコ展 代表作450点展示

2021/05/22 05:30

歴代コレクションで使ったカラフルなタイツが飛び出す展示「ニョキニョキ」=兵庫県立美術館

 「ほんまもの、美しいものを見てほしい」。世界的ファッションデザイナー、コシノヒロコさん(84)の代表作約450点が、兵庫県立美術館(神戸市中央区)の「コシノヒロコ展」(神戸新聞社など主催)で一堂に会した。60年以上、創作を重ねながら、変わり続ける。見せたいのは「今」。思いは「未来へ」。鮮やかな色と優雅な造形で、コロナ禍にある人々を「元気づけたい」と願う。壮大な美の世界、その細部まで、とくとご覧あれ-。 (小林伸哉) 関連ニュース 神戸市で新たに38人が新型コロナ感染 2人死亡 【速報】神戸市で新たに40人感染、2人死亡 新型コロナ 23日 【速報】兵庫県で新たに111人感染、9人死亡 新型コロナ

 「未来の子どもたちに“ときめき”のバトンを手渡したい」とコシノさん。ファッションデザインの第一線を走る「コシノ3姉妹」の長女だ。世界各地でショーを開き、人々を驚きや感動で包んできた。
 「独自の感性が何より大切な時代が来る」。幼少期に歌舞伎や文楽に夢中になって、美意識を磨いた。「生で見るほど強いものはない」と信じる。だからこそ、生地の質感や色の調子、カッティング、細やかな刺しゅうまで、本物をじっくりと間近で見られる展示にした。
 「フワフワ」「ヒラヒラ」「チカチカ」「ニョキニョキ」「クルリンパッ」…。作品の世界をオノマトペ(擬音・擬態語)で表した14のテーマで紹介する。
 「回顧展ではありません。現代に通用するものしか出していない」。歴代のコレクション作品から選び抜いた約250点を「今」のコーディネートで見せる。「アートを基盤にしながら、ファッションを表現してる。アートは生きるための力」。かつて画家志望だったコシノさんが描き続けた絵画約200点も並ぶ。

 コシノさんは、建築家安藤忠雄さんの設計で1981年、芦屋市内に自邸を建て、今も創作の拠点にしている。「どこを見てもグレー一色の安藤建築の中で、色や形が出てきて、私のクリエーション(創作)が生まれた」と振り返る。
 県立美術館も安藤さんが手がけ、コンクリートの打ちっ放しが印象的。灰色の大階段でドレスなどをまとったマネキン20体が出迎える。「私の作品はここに置くのがぴったり」。創作過程を象徴するかのような見せ方で、色と意匠がひときわさえる。
 「ルンルン」と題した展示室は、ピンクや黄色などの明るい色を基調に、鳥や魚などの絵画が並ぶ。隣のコレクション作品と見比べると、絵からアイデアが触発され、服飾に結びつく流れを感じる。ピアノやバイオリンの曲線模様が生きる作品は、サッカー女子のINAC神戸が採用する新ユニホームの原案となった。
 続く「ビュー」の展示室は一転、墨絵による白と黒の世界だ。筆が勢いよく走る大胆さに加え、和の静けさも漂わせる。
 後半の「ビヨ~ン ギュッ」は、洋服を透明なケースに詰めて油絵風に飾り、着用時には見えないディテールを浮き彫りに。「ピョン」と題したアニメや、紙のドレスを光らせるアート「きらきら」もあり、子どもたちを引きつける。

 ドビュッシーの楽曲が流れる大空間は「ワクワク ドキドキ」。コレクション作品を着た人形106体が、交響楽団のように並ぶ。日本の美意識に根差しつつ、東洋と西洋の文化を合わせて高みに達し、唯一無二の多様な美が生まれた。すべて一点物で圧倒される。
 担当学芸員の鈴木慈子(よしこ)さんが、おすすめの楽しみ方を教えてくれた。「鑑賞の軸を自分で見つけてみる。関連するモチーフに着目する。例えば花。菊の服の近くに、ハスの模様があって、次にボタン。組み合わせが面白い。間近で見てこそ分かる。生地がふさふさ、もふもふ、つるっとしてる、とか」と話す。
 若者の心をぐっとつかむ展示だ。会場で専門学校生の女性(18)は「写真じゃなくて直接見たかった。刺激がたくさん。この服にはどんなメークを合わせようか」と想像を膨らませた。
 「洋服の森を探検する気分を味わってほしいです」と鈴木さん。この美しい“森”はとっても奥深くて、何度でも訪れたくなる。

 会期は6月20日まで。緊急事態宣言に伴って臨時休館したが、5月12日から再開。月曜は休館だが、6月7、14日はコシノヒロコ展のみ公開する臨時観覧日とする。兵庫県立美術館TEL078・262・1011

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