「藤井聡太論」出版、谷川九段に聞く 「彼は将棋の真理を求める気持ちが強い」
2021/06/05 11:35
藤井聡太二冠の強さについて語る谷川浩司九段=神戸市東灘区
将棋の藤井聡太二冠(18)=王位、棋聖=にとって初のタイトル防衛戦となる「第92期棋聖戦5番勝負」と「お~いお茶杯第62期王位戦7番勝負」(神戸新聞社主催)が今月、相次いで開幕する。将棋ファン以外からも注目を集める二つのシリーズを前に、谷川浩司九段(59)=神戸市東灘区=が「藤井聡太論 将棋の未来」を出版した。藤井二冠の最大の持ち味を「局面の急所をとらえる力」と分析。豊富なエピソードを基に、藤井二冠の強さに迫る。(井原尚基)
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谷川九段は2010年、名古屋で開かれた将棋イベントで、当時小学2年だった藤井二冠と2枚落ちで指し、対局後に大泣きされた経験を持つ。過去5人しか成し遂げていない「中学生棋士」の経歴が共通しているほか、数字好きで鉄道好きという盤外の好みも似ているという。
藤井二冠が14歳2カ月で史上最年少四段デビューした後、藤井二冠のほとんどの対局をネット中継などで追ってきたという谷川九段。昨年、当時棋聖だった渡辺明三冠(37)=名人、棋王、王将=から初タイトルを奪取した棋聖戦第4局の最終盤、秒読みの中、安全策を取らず最短での勝利を目指して踏み込む姿に驚いた。
「私自身も後輩たちも、初タイトルを取るときは手が伸びなくなったり、早い勝ちを逃したりと、気持ちの揺れが指し手に現れた。藤井さんのような勝ち方は初めてだった」
大事な場面で、リスクを負いながら堂々と指せる理由について、谷川九段はこう語る。
「将棋が好きで、最善手や将棋の真理を求める気持ちが強いのでしょう。結果や記録にはそこまで重きを置いていないから、極端に言えばタイトル戦も研究将棋も同じ姿勢で臨める。そのように解釈しないと彼の戦い方に説明がつかない」
人工知能(AI)が研究などで重宝されている現在。藤井二冠も研究にAIを活用しているが、谷川九段は「藤井二冠(八段)の本質的な強さとAIは関係ない」と見る。
一方で「私の時代は棋譜も簡単に手に入らなかったので、お手本があまりなく、強くなること自体が大変だった。今はコーチ(AI)もあるので、強くなる環境は圧倒的に恵まれている」と時代背景を語る。
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「タイトル戦さなかの2カ月間は、常に相手のことを考えている」「相手はいまどんな局面を研究しているか。どういう戦法を考えているのか。ある意味、恋愛感情に近いものがある」-。本書では、22回のタイトル戦を戦ってきた羽生善治九段(50)に対して抱いてきた心情も記されている。率直な気持ちを記した背景については「この年齢ですし。30代のころはなかなか書けなかったと思います」と打ち明ける。
間もなく始まる藤井二冠の防衛戦。渡辺明三冠との棋聖戦5番勝負は6日、豊島将之二冠(31)=竜王、叡王=との王位戦7番勝負は29日から行われる。
「どちらも厳しい戦いになりますが、彼のことだから、肩に力が入るわけでもなく、今まで通りの対局が見られるのかな」
「藤井聡太論 将棋の未来」は講談社+α(プラスアルファ)新書。990円。