「受け子、48歳」 離婚2度、コロナで無職 ツイッターに「仕事紹介して」 保釈金は息子が立て替え

2021/06/14 11:44

ツイッターで「高収入」「バイト」で検索すると、「闇バイト」を紹介する書き込みが大量に表示される(画像の一部を加工しています)

 48歳の「受け子」-。特殊詐欺グループでは末端の役割で逮捕される危険性が高く、少年少女が「闇バイト」として手を染めてしまうことがある犯罪になぜ、中年の男が手を出したのか。神戸地裁であった公判を傍聴すると、犯罪に足を踏み入れるハードルの、際立った低さが垣間見えた。 関連ニュース 詐欺グループの“使い捨て”だった20代女、法廷で打ち明ける「失敗しないかと願っていた」 少年院や刑務所で通算10年「今度こそ」更生誓った甘い物好きの半グレ 「無料のチャット」が地獄の始まり… 詐欺メールにだまされた女性の8カ月にわたる体験談

 ■コロナで解雇
 茶髪に染めた短髪。保釈中だった遠山進太郎(仮名)は昨年5月、「全国銀行協会」の職員を名乗り、神戸市灘区の女性(83)からキャッシュカード2枚を詐取したとして兵庫県警に逮捕された。今年2月のことだ。
 姫路市出身の遠山は高校中退後、土木や電気関係の仕事に就いたが長続きしなかった。2度結婚し、いずれも離婚。大阪市で1人暮らしをしていた。
 事件当時は定職がなく、友だちの仕事を手伝う程度。新型コロナウイルスの影響で事件の2カ月前に電気工事の仕事を解雇された。
 「勤務期間が短く、失業保険はもらえなかった」
 所持金は減り「8千円ほどになり焦った」。ツイッターに「お金に困っています。仕事を紹介してください」と投稿した。
 ■偽名
 程なく数件のメッセージが届いた。「受け子」「出し子」と書かれていた。露骨な犯罪行為の勧誘に抵抗を感じた。その中に「キャッシュカードを回収する仕事です」と伝える人物からのメッセージもあった。
 試しに連絡すると、「全国銀行協会の職員を名乗り、コバヤシアキラという偽名を使ってください。報酬は最低5万円です」と伝えられた。
 犯罪だとうすうす気付いた。だが、遠山はすでに運転免許証を提示していた。自分の住所は相手に知られている。「ちょっと怖い」。そんな気持ちもあり、引き返せなかった。
 ■カードは消火器の下
 昨年5月28日、遠山は指定された神戸市灘区内の駅にスーツ姿で着いた。
 共犯者に連絡すると「金融商品ご解約手続き証明書」と全国銀行協会の名札をコンビニのコピー機で印刷するよう指示された。
 午後1時すぎ、また連絡があった。灘区の住所と居住者の名前、地図が送られてきた。現場に着くと、共犯者と通話状態にしたスマホを忍ばせ、インターホンを押した。焦った様子の高齢女性に協会職員だと告げ、キャッシュカード2枚を受け取った。
 印刷した証明書を出した。自然な会話もできた。女性の家を後にすると、キャッシュカードについての指示が来た。「(被害者宅に近い)集合住宅内の消火器の下に置け」。その通りにした。
 ■不成立
 カードを置いた遠山は「今日はこれで終わりです」と連絡を受け、元妻に会うため大阪・十三に向かった。道中、後悔の念がわいた。
 共犯者から「不成立でした」と連絡がきた。口座から現金が引き出せなかったと悟り「正直、ほっとした」。報酬は払うと言われたが、断った。「もう関わらんとこ」。そう決めた。
 その後も受け子を勧められたが相手にしなかった。
 2週間後、病院で患者を送迎する仕事を得た。収入は月10万円ほど。順調だった。元妻と同居も始めた。
 しかし8カ月後、逮捕された。49歳を迎える誕生日の前日だった。
 ■「真面目に生きてくれ」
 赤いセーターに白いジーンズ姿の遠山は、法廷で「被害者に怖い思いをさせて申し訳ない」と反省の弁を述べた。保釈金は元妻との間に生まれた息子が立て替えてくれた。今、住んでいる場所の家賃も援助してもらっている。借金もある。「真面目に生きてくれ」。息子からそう言われた。
 遠山は声を絞った。「もう少し努力して仕事を探していれば、こんなことにならなかったかもしれない。更生するため、職を探します」。ベルトに付けた鍵束の音が法廷に響いた。
     ◆
 神戸地検は懲役3年6月を求刑、神戸地裁は5月下旬、懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡した。(堀内達成)

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