虐待の「一時保護」巡り、児相と親がトラブル コロナを心配した休学が虐待とされた事例も

2021/07/16 15:35

厚生労働省の文書。児童虐待防止対策の強化で、自治体に対しリスクが高い場合は躊躇なく一時保護を求める

 児童相談所(児相)に対する虐待相談件数が増加する中、児相による子どもの一時保護を巡って親と児相側がトラブルとなるケースが出ている。子どもの虐待死事件が相次ぎ、国は「躊躇(ちゅうちょ)ない保護」を自治体に求めるが、保護者には不当に虐待を疑われた「横暴な引き離し」と映る事例もある。専門家は、児童に対する処遇決定で、児相側の情報開示のあり方も課題と指摘する。(名倉あかり) 関連ニュース 児相保護で1年超別居「虐待なかった」 明石市長、両親に謝罪 「異性と会話禁止」「トイレに無断で行けず」児相の規則に女子中生「なぜダメなの?」 「帰るとこ、なくなっちゃった」 少女がこぼした家族の終わり

 昨年、兵庫県内の母親は、中学生だった長女と引き離された。長女は心臓に疾患があり、新型コロナウイルスの感染リスクを考えて、学校を数カ月間欠席させていた。すると担任の教師から「進路の相談がしたい」と連絡があり、長女を登校させたところ、そのまま児相に一時保護された。
 母親は「学校の通告により、児童虐待のおそれがある」とする文書を手渡され、「保護者が学校に行かせていないから」と告げられた。母親は「生きた心地がしなかった。コロナから娘の命を守る行動が『虐待』とされるなんて」と声を詰まらせる。保護は短期間で解除されたが、具体的な説明はなかったという。
 また、別の世帯の父親は中学生の長女が約3カ月間一時保護されたが、「児相職員が家庭復帰から遠ざけようと誘導した」と憤る。
 長女が保護されたきっかけは、口げんかをする両親を止めようと警察に通報したこと。ただ長女は家族と暮らすことを希望し、面会でもそう意思表示した。
 しかし、父親は児相の職員に「娘さんは心変わりし、児童養護施設へ行きたいと言っている」とだけ伝えられた。長女によると、職員に「家に帰っても親は家賃が払えない。暴力を振るうかもしれない」「学校に行きたければ養護施設へ」と説得されたという。父親は「『(施設への)入所に同意しなければ審判になって子どもに会えなくなり、居場所も分からなくなる』と、脅しともとれる言葉も言われた」と振り返る。
 一方、それぞれの一時保護について担当する児相は「個別の事案には答えられない」としている。
     ◆
 一時保護は虐待が疑われる場合、児童福祉法に基づき、児相が親の同意を得ずに子を引き離せる措置。東京都目黒区で2018年3月、5歳の女児が虐待死した事件などを受け、国は同年、リスクが高ければ躊躇なく一時保護を求める通知を出した。
 兵庫県内のこども家庭センター(児相)が受けた児童虐待の相談件数は19年度に8308件。15年度の3281件から約2・5倍に急増した。県は03年に、児童虐待対応マニュアルを作成。一時保護の決定では、保護者の精神状態や虐待につながるリスクなどをチェックするシートを用意し、児相所長を含む複数人が要否を検討する。
 県内では、一時保護された明石市の乳児が1年3カ月にわたり家族から引き離された問題を受け、同市が4月、第三者委員会を設け、保護の判断などを点検する。また、厚生労働省は一時保護の開始時点から家庭裁判所の審査を導入する制度も検討している。
     ◇     ◇
■親と一緒に考えていくべき
 元児童相談所長で社会的養護に詳しい奥田晃久・明星(めいせい)大(東京)特任教授の話
 一時保護の判断で、保護者の言葉をうのみにすれば、子どもの命が失われることもある。児相は子どもの声を聴く最後のとりでとして役目を果たさなければならない。一方で、保護後は理由などを丁寧に説明し、子どもがもう一度家族と暮らすには何が必要なのか、保護者と一緒に考えていくべきだ。保護者をケアし、指導する体制を整えるために、児相は不足している職員数に加え、若手を育成する人材の確保が急務だ。

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ