反発招く井戸氏の施策などで後継・金沢氏の票が伸び悩み 知事選を法政大教授が分析

2021/07/19 19:00

土山希美枝・法政大教授

 元大阪府財政課長の斎藤元彦氏(43)が、前兵庫県副知事の金沢和夫氏(65)らを振り切って初当選した兵庫県知事選。神戸新聞社が、投開票日の18日に実施した有権者対象のインターネット調査では、4年前の前回選で現職の井戸敏三氏に投票した人の4割超が、今回斎藤氏に一票を投じたと回答し、井戸氏の政治路線についても、継承を求めない人の割合が過半数を占めた。この結果や投票率などを踏まえ、法政大学法学部の土山希美枝教授(公共政策、地方自治)に今回の知事選を分析してもらったところ、「倦怠(けんたい)」「イメージ」「諦観(ていかん)」の3つのキーワードを挙げた。(聞き手・小川 晶) 関連ニュース 井戸知事ぼうぜん「『刷新』の言葉に踊らされた」 兵庫県知事選 初当選から一夜明け 斎藤氏、意気込み語る 兵庫県知事「大阪との県境に壁建てられたらいいのに」 大阪の新型コロナ感染者増で

-(前回選で井戸氏に一票を投じた人に)今回選で誰に投票しましたか。
 金沢氏=49%
 斎藤氏=43%
-井戸氏の政治路線について、今後どうあるべきと考えますか。
 引き継ぐ方がよい=22%
 引き継がない方がよい=53%
 この調査結果から浮かび上がってくるのが、有権者の間に広がる「倦怠」感だ。5期20年という、長期にわたる井戸氏の県政運営に対し、けだるさを抱いていた人が多かったのだろう。
 全国の首長をみてみると、「改革派」をうたって当選しても、3期が目いっぱいで、4期目以降にイノベーティブな施策を打ち出した人はほぼいない。高度成長期の革新勢力の首長にしてもそうで、次第に議会との関係が安定し、オール与党体制の中で、無難な路線に終始するようになるケースが目立った。
 井戸氏の場合は、この倦怠感に、コロナ禍が重なった。有権者の日常生活が大きく変わった中で、政治の「継続」が否定的に捉えられる傾向が強まった。「うちわ会食」のような反発を招く施策もあり、井戸氏のかじ取りが、悪く言えば惰性のように有権者に映った。後継の金沢氏の票が伸び悩んだ一因だろう。
-投票に当たって最も重視した基準は何ですか。
 政策や公約=27%
 県政の継承か刷新か=17%
 政治・行政経験=14%
 年齢=14%
 政党や団体の推薦=10%
(10%以上の回答のみ抜粋)
 今回の選挙では、斎藤氏や金沢氏らの訴えに、そこまで大きな違いは感じなかった。この調査結果をみると、「政策や公約」と答えた有権者が最も多いが、具体的な施策を挙げられる人が果たしてどれくらいいるのだろうか。
 私は、政策論ではなく、漠然とした「イメージ」によって一票を投じた人が多かったとみている。端的に言えば、斎藤氏の「若さ」や「改革」といったイメージが、県政の刷新を求める層の受け皿になった。
 コロナ禍で発信力を発揮した、日本維新の会の吉村洋文・大阪府知事や松井一郎・大阪市長らの影響もあっただろう。維新の推薦を受ける斎藤氏に「何となくおもしろそう」「何かやってくれそう」と感じた人も一定いたはずだ。
■投票率
 前回選=40・86%
 今回選=41・10%
 今回の選挙は、自民党の分裂に、維新の参戦という、ドラマチックな展開があった。各党とも、これまで以上に票の掘り起こしに躍起になっただろうに、投票率は前回選並みにとどまっている。
 私は、「無関心」を超え、より深刻な「諦観(あきらめ)」の域に多くの有権者が入っているのだと思う。候補者や政党が「継続」や「刷新」と訴えたところで、そもそも、首長の交代ということ自体にリアリティーがなく、全く響いていない。
 現在の県政の継続は嫌だけれども、「変えなくちゃいけない」という大きなムーブメントにまではつながらなかった。「首長が交代してもどうにもならない」という思いが、有権者の根底に広がっていたのだろう。
   ◆    ◆   
 インターネット調査は、神戸新聞と毎日新聞、毎日放送、社会調査研究センターが協力して実施。得られたデータのみを共有し、各社が独自に分析した。NTTドコモの携帯電話ユーザーを中心とするプレミアパネル(dポイントクラブ)の県内在住者から、対象者を無作為に抽出。メールで協力を依頼し、2078人(10~30代=319人、40~50代=987人、60歳以上=772人)が投票先を答えた。

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