兵庫9区・西村氏当確 党の顔として奔走、念願の自民総裁へ大きな一歩
2021/10/31 20:10
駅構内で支援者らとグータッチを交わす西村氏=21日、明石市小久保2
経済再生相、新型コロナ対策担当相として政権の中枢を担った実績に加え、自民党に逆風が吹き荒れ、旧民主党に政権を奪われた2009年衆院選でも揺るがなかった強固な地盤をまとめ上げ、7選を確実にした自民前職の西村康稔(59)。目指す自民総裁の椅子へ近づく「大きな一歩を踏み出す」結果となった。その経歴を振り返る。(敬称略)
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日本最大のつり橋「明石海峡大橋」で知られる兵庫9区(明石、淡路、洲本、南あわじ市)。大橋は、西村が一時秘書を務め、後継指名を受けた元衆院議長・原健三郎(2004年11月死去)が実現に尽力した。
「この(米サンフランシスコの)ゴールデン・ゲート・ブリッジを見て、明石海峡大橋をつくろうと思いついたそうです。こうした大胆な発想も見習わないといけません」
西村が原との思い出をつづった一文だ。
初めての選挙戦は、14年間務めた旧通産省を退職して臨んだ2000年。原の後継を名乗り、自民が公認した宮本一三(16年8月死去)との保守分裂選挙に臨んだが、約5千票差で涙をのんだ。
その3年半後、文部科学副大臣の肩書を持つ宮本を振り切り、初当選を果たす。当時、無所属だったが「当選すれば自民党で小泉改革を進めたい」と、幹事長だった安倍晋三とのパイプも強調していた。西村は安倍との関係を軸に、内閣府副大臣、官房副長官と着実なステップアップで礎を築いていく。
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サラリーマンの家庭に生まれ、神戸大付属明石小学校の低学年まで市営住宅に暮らした。ザリガニ釣りや三角ベースで真っ黒になって遊び回る毎日で「当時の通知表には(5段階評価で)見事に2と3しかなかったんです」。
中学では漠然と医者を目指し、灘高校に進学する直前の明石駅前で、国会議員が発する一言一言に聴衆が沸く光景に「世の中を変えるエネルギーを感じた」。政治や国の仕事を初めて意識した。
灘高から東大法学部へ進んだ西村はボクシング部に入る。西村によると通算成績は9勝2敗。「打たれ強さが身上です」。学生時代に打ち込んだボクシングと絡め、西村がよく口にする冗談だ。
「19歳で『将来、総理大臣になる』と言い切った」
1982年秋の駒場キャンパス。西村の1年後に東大へ進んだ明石市長の泉房穂は、ボクシング部の体験入部で初めて出会った西村のそんな言葉を鮮烈に覚えている。
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東大卒業後、旧通産省を経て政治の道を歩み続ける西村。環太平洋連携協定(TPP)交渉に携わり、米トランプ大統領と安倍晋三首相(当時)の会談に同席するなど、実務能力の高さと政策通で知られる。
その一方で、その言動が問題となることもしばしばだ。
2018年7月。平成最悪の犠牲者数を出した西日本豪雨で、気象庁が再三警戒を呼び掛ける中、安倍首相や自民党議員ら約50人が宴会を開いていた事実が発覚。きっかけは、官房副長官だった西村がツイッターに投稿した宴席の写真だった。野党は「責任感が欠如している」と安倍首相や政府の初動を批判した。
同年9月には、安倍首相と石破茂元幹事長との一騎打ちとなった自民党総裁選を巡り、石破氏の神戸入りを支援した神戸市議がフェイスブックに、西村から「露骨などう喝、脅迫」を受けたと投稿した。
経済再生相、コロナ担当相になっても続いた。20年6月の会見で、新型コロナ対策の専門家会議の廃止を突然表明。与野党から「事前に説明を受けていない」などと批判が噴出し、同会議の設置を提言した公明党の会合で「強く言い過ぎたと反省している」と陳謝する事態になった。
今年3月には、西村が所管する新型コロナ対策推進室職員が正規の勤務時間以外に在庁した時間が、最も長い職員で391時間もあったとして、官房長官が「かなり異常。超過勤務を縮減し、能力を十分発揮する環境をつくっていきたい」と釈明に追われた。
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「県内12選挙区の自民候補を全員当選させる」「近い将来の総裁選で支えてくれる仲間をつくる」
公示前の2日間、地元・明石市の支援者が集まるミニ集会を慌ただしく回った西村は、必ずこう繰り返した。今回で幾度目かになる「本人不在の選挙」へのわびとも取れた。
経済再生相、コロナ担当相として政権を支えた西村。2年間で会見は584回、国会答弁は2795回を数え、その姿は連日、テレビニュースなどで報じられた。今回の衆院選では、党兵庫県連会長と党選挙対策委員長代行という「党の顔」に就任した。
応援演説で全国各地を飛び回り、自身の選挙区でマイクを握ったのは公示日くらいしかなかったが、大勢に影響はなかった。
一方で「顔が売れた」代償も決して小さくはない。
「地元できちんと説明してほしい。まるで逃げてるみたいや」
コロナ禍で苦しんだ地元・明石市の飲食店関係者がこぼすのは、西村のある発言に対する違和感からだ。
東京都に4度目の緊急事態宣言発令が決まった7月8日夜。会見した西村は、酒類の提供自粛に応じない飲食店に、金融機関から順守を働き掛けてもらう方針を示した。ところが「脅し」「圧力」などと与野党から批判を浴び、わずか1日で撤回した。
大臣時代について「ボクシングをやっていたので打たれ強さは身上だが、何をやってもたたかれる」と、支援者らにユーモアを交える西村。「圧力」発言について問われると「あくまで法律にのっとった発言。だが、飲食店内の不平等を何とかしたい一心で前のめりになった」と釈明する顔に笑みはなかった。
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「政権の最前線に4年間立たせていただいた」と強調する西村だが、「安倍・菅政権」との言葉以外、ともにコロナ対策に取り組んできた前首相の菅義偉の名が口から出てくることはない。
尊敬する政治家に必ず吉田茂、安倍晋三を挙げる西村。「菅前首相は」との問いには、しばらく考えた後「こうと決めたことに対する突破力は称賛に値する」としたものの、「経済対策などを巡ってたくさん議論した。考え方は違う」とも言い切った。
政権の中枢にいた功績をアピールする一方で、コロナ対策でつまずき、退陣を迫られた菅政権のイメージを払しょくしたい思惑がにじむ。19歳で公言、46歳で苦杯をなめた「自民総裁」の座を近い将来に見据えた戦術はすでに組み上がっている。(衆院選取材班、小西隆久)
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