要介護2の両親、親族が次々に感染 父の最期、耳元で「ありがとう」 笑顔の暮らし絶たれ

2021/11/22 05:30

父が愛用していた帽子や時計

 「感染者の数が減り、ありがたいことですが、私たち家族は半年たった今でも、時間が止まったままのような感じです」-。兵庫県小野市に住む公務員の女性(54)から神戸新聞にファクスが届いた。そこには、車いすで生活する父(82)と認知症の母(80)が新型コロナウイルスに感染し、父は陽性判明からわずか4日後に亡くなったと記されていた。兵庫ではこれまでに1396人がコロナで命を落としている。多くの遺族が、苦しみの渦中にいる。 関連ニュース 怖いのは急変、夫婦最後の会話に涙 看護師長が語るコロナ病棟の現状 「これは死ぬ」「無理、もう」30代男性が語る死の恐怖 今も後遺症 若者のコロナ重症化リスク訴え 命の危機、入院10カ月 「主人は生きたいと思う」気管切開、言葉なく 半年ぶり面会の妻、あふれる涙

 11月初め、送り主の女性と看護師の妹(48)=神戸市在住=と会った。女性は3人きょうだいの長女で、伊丹市に会社員の弟(51)がいる。今年4月まで、父母は弟家族と同じ伊丹のマンションに2人で暮らしていた。
 ともに要介護2。平日は高齢者向けの施設で過ごし、週末は自宅に戻るという生活だった。女性と弟家族、妹が交代で介護を担っていたという。
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 その日常をコロナが襲った。父母が通う施設から「利用者の家族にコロナ陽性が出た」と連絡があったのは、4月18日の夜だった。
 4日後、母の陽性が判明する。コロナの症状はなかったが、認知症患者ゆえの対応が必要になった。
 母は以前から、不安になると自宅から出ようとする傾向があった。近隣に感染を広げないよう、家族が必死で止めた。
 介護のため、陽性と分かる直前に父母と接触していた女性と妹は、マンションに行くのを控えた。
 翌日、父親が発熱。姉妹が阪神地域の病院や保健所に次々電話したが、受け入れ先はすぐに見つからなかった。
 午後、父の意識レベルが低下。救急搬送された川西市内の病院でコロナ陽性が分かった。一方、部屋に残った母は混乱し、弟が感染を覚悟して泊まりがけで付き添った。弟の妻も介護に入り、過酷な時間が過ぎていった。
 咳などの症状が出た母の入院がようやくかなった4月26日、「父の状態が厳しい」と病院から連絡が入った。家族2人だけ5分間の面会が許された。
 女性と弟が防護服を着て、父のそばに近づいた。息は浅く、声をかけても反応はない。女性は父親の胸元を触った。びっくりするほど熱かった。
 ゴーグルを着けた目から涙がこぼれる。付き添った看護師も泣いていた。父の手を握り、足をマッサージして、耳元で「ありがとう」と伝えた。
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 翌日、父は亡くなった。病院の霊安室で短時間の面会が認められ、すぐに火葬された。妹は最後、父親に「ごめん」と謝ったという。「自分の親を守れなかった…」。自責の念は今も胸にこびりついている。
 母は回復したものの、長い入院生活で認知症が悪化し、夫の死を理解していないという。
 野球を愛し、孫たちに囲まれ笑顔だった父の暮らしは、あっという間に絶たれてしまった。
 「何がベストだったのか分からない。『もしも』ばかりを考えて、前に進めない」と2人。周囲の目が気になり、コロナの遺族は声を上げにくいとも感じる。
 感染者が激減し、日常は戻りつつある。そのことに希望を抱きつつ、女性は「感染者数が少なくなって良かったね、だけでいいんでしょうか?」とつぶやいた。(中島摩子)
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