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東の作家の美人画などが並ぶ展示空間=あべのハルカス美術館
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東の作家の美人画などが並ぶ展示空間=あべのハルカス美術館
西の作家の美人画などが並ぶ会場=あべのハルカス美術館
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西の作家の美人画などが並ぶ会場=あべのハルカス美術館

 信じたのは自らの審美眼だ。画家の名や世間の評価にとらわれず、ほれ込んだら買い求める。日本近代美術の妖艶な美人画から戦争画まで、幅広く集めた実業家のコレクションを紹介する展覧会「コレクター福富太郎の眼」が、大阪市阿倍野区のあべのハルカス美術館で開かれている。作家ら55人の優品ばかり約80点が並ぶ。収集にかけた思いが熱い。そして、絵を見つめたまなざしが温かい。(小林伸哉)

 「福富太郎は、等身大で絵を見ることを全うした、アカデミズムを透徹する美意識をもった、稀有(けう)なコレクターだった」。本展を監修した美術史家で明治学院大の山下裕二教授は、図録などに寄せた文章で評する。「間違いなく戦後最高のコレクターだと思っています」

 福富太郎さん(1931~2018年、本名・中村勇志智(ゆうしち))は、10代からキャバレーの住み込みのボーイとなり、20代で独立した。高度経済成長期の波に乗って全国40店以上を営み「キャバレー王」と呼ばれた。テレビ番組にも多数出演し、愛嬌(あいきょう)ある人柄で親しまれた。

 一方、美術史などの本を読みあさって、画家や作品を調べ尽くした。収集品の魅力を伝える「絵を蒐(あつ)める 私の推理画説」(新潮社)などの著作を残した名文家でもある。

 事業が成功した1960年代から、収集に情熱を注いだのは、日本画家鏑木清方(かぶらききよかた)(1878~1972年)の絵だった。太平洋戦争の苦い経験が原点だ。45年5月、福富さんの東京の自宅は空襲で焼けた。父が大切にしていた清方の掛け軸を持ち出せず、気にかけていたという。清方の描くような女性がタイプとも語っていた。

 本展で清方の13点が登場する。悲恋を描いた「薄雪(うすゆき)」は、死を覚悟して抱き合う男女に、真白の雪が舞い散る。30代に病んだ福富さんが、入院した病室に飾って癒やされた。亡くなったら一緒に棺桶(かんおけ)に入れてほしい、と望んでいたという。

 幻想的な人魚が横たわる「妖魚」には、妖しげな色香が漂って、見とれてしまう。ただ、清方は気に入っておらず、自宅で風よけにしていたとの逸話が残る。

 清方の美人画について同館学芸員の横山志野さんは「目を離すと、ふと消えてしまいそうで、格調高い美しさがある」とたたえる。

 さらに美人画では、東の菊池容斎(ようさい)、渡辺省亭(せいてい)、池田蕉園(しょうえん)、小村雪岱(せったい)らを紹介。竹久夢二の「かごめかごめ」には少女らが遊ぶ姿が描かれ、福富さんのお気に入りだった。40年に幼くして亡くなった「妹の姿が浮かんでくる」とつづった。

 西の画家では、北野恒富(つねとみ)の「道行(みちゆき)」が圧巻だ。近松門左衛門の「心中天網島」を題材に、愛し合いながら死に追いやられる男女を描く。「計算された図面構成。人物を右端に描き、2人には先がないと想像させます」と横山さん。血の気が失(う)せ、青白い表情の男女だが、指をからませた手の描写に注目だ。「ほんのり赤みが差しているんですね」

 上村松園(しょうえん)や秦(はだ)テルヲ、島成園(せいえん)、甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)の作品も並ぶ。横山さんは「東と西で醸成された美意識の違い、時代による変化、男性と女性が描く女性像の違いを、福富コレクションで知ることができる」という。

 日本画の女性像だけでなく、洋画家を30人紹介するのも本展の特徴だ。戦争画では、満谷国四郎が日露戦争を題材にした「軍人の妻」に引きつけられる。夫の遺品を手にした喪服姿の女性の姿だ。福富さんは「毎日、絵をみつめているうちに、彼女の涙に気がついた」と書き残す。ほんのわずか、こぼれずに光っている。

 来年1月16日まで。12月31日と元日は休館。一般1500円ほか。あべのハルカス美術館TEL06・4399・9050

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