【日本海と生きる カニのまちから(4)】冬の味覚の王様 過疎の地支える貴重な資源
2021/12/10 11:00
「かにソムリエ」として松葉ガニの食べ方を宿泊客に伝える清水左知子さん(左)=1日、兵庫県新温泉町七釜、清水や
 冬の味覚の王様、松葉ガニ(ズワイガニ雄)が5匹入ったステンレス製のかごを従業員がリフトでつり上げ、蒸気の立った角釜に沈めた。塩ゆですること、約21分。磯の香りが混じった匂いが辺りに立ちこめた。
          
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 9日朝、兵庫県香美町の水産加工業者「マルニ竹内商店」の加工場。「釜の湯を満遍なく循環させて炊くのがポイント。おいしいカニは身もみそも詰まっていて、甘みがある」。竹内隆弘社長(65)が胸を張った。
 水産加工業者が軒を連ねる同町香住区で、1930(昭和5)年に創業した。祖父の代から受け継がれる「釜ゆで」は、カニの大きさや状態で最適なゆで時間や塩加減が異なる。地元では技術習得の難しさから、「目利き10年、ゆで一生」ともいわれる調理法だ。
 ゆでガニは、京阪神の顧客への宅配や店頭販売が漁期中の売り上げの約7割を占める主力商品。だが、今季は漁獲量が記録的に少なく、価格が高騰。仕入れが低調で、注文に応えられないもどかしさが募る。
 「小さく、脚が取れて、例年なら3千~4千円のカニが1万円近く。残念ながら高すぎて、お薦めできない」。ひっきりなしにかかる電話の対応に追われながら、竹内社長が嘆いた。
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 新型コロナウイルスワクチンの普及で観光客がようやく戻りつつある中、待望のカニシーズンが到来した但馬では、水産加工業者や観光業者が、今が書き入れ時とせわしなく働く。
 太い脚から白い身が膨れ上がった焼きガニに、お造りやゆでたセコガニ(ズワイガニ雌)、カニすき鍋、雑炊…。新温泉町の七釜温泉にある民宿「清水や」(6室)は、おかみの清水左知子さん(52)が腕によりをかけた地ガニのフルコースで常連客をもてなす。
 浜坂観光協会が2008年に設立した「かにソムリエの会」(50人)の会長も務める清水さん。料理を提供しながら、身の取り方やレシピ、漁の仕組みなどカニにまつわる知識を余すところなく話して伝える。
 雪深く、温泉以外の観光地が少ない同町で、地域のリピーターを増やそうと始まった試み。「日本海は人を引き寄せる魅力がある」と明るく話す。
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 香美町の香住区では昭和30年代まで、冷水と暖水が重なり合う海から魚が湧くように大量に揚がり、一夜にして蔵が建ったという逸話も聞かれた。
 竹内社長は、四季折々の魚を加工して働いた両親のもとで育ち、大学を卒業後に家業を継いだ。「人が減り、若者が都会に出て、高齢化が進んでも、海と魚についてはつくづく恵まれた場所に生きてきた。海に育てられた」と実感を込める。
 数年前、元商社マンで海外赴任歴の長い年配の客が店先で言った。「世界各地でいろいろなカニを食べてきたが、山陰沖で取れる松葉ガニが一番うまいな」
 雄大な海と、カニと、地域と、訪れる人と。切れることのないつながりを感じてこのまちは生きている。(金海隆至、末吉佳希)=おわり=
【バックナンバー】
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