斎藤流の新県政「本音見えない」コロナ対策「大阪に追随」 知事就任から半年(上)
2022/02/03 05:30
休暇先で仕事をする「ワーケーション知事室」を初めて行った斎藤元彦知事。地元の食材で昼食を取り、住民らと触れ合った=昨年12月、兵庫県多可町
昨夏の兵庫県知事選で、自民党と日本維新の会の支援を受け、初当選した元総務官僚の斎藤元彦知事(44)が1日、就任から半年を迎えた。20年ぶりのトップ交代で「県政の刷新」を訴え、副知事出身者が知事に就く長年の系譜に終止符を打った斎藤氏。若い発想や発信力、リーダーシップ…。さまざまな期待を受けて走りだした新県政の実態を探った。(紺野大樹、大島光貴、金 旻革)
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先月19日。兵庫と大阪、京都の3府県知事がオンライン会議を開いた。新型コロナウイルスの第6波を受けて、まん延防止等重点措置の要請をそろって決めるとみられたが、肩すかしに終わった。
会議後、会見した斎藤氏は、要請のタイミングを問われたが、明確な基準を示さず、20回近く「総合的に判断する」と繰り返し、歯切れの悪い返答に終始した。県内ではこの日、1日当たりの感染者数が初めて2千人を超え、病床使用率は4割近くに迫り、一刻の猶予もなかった。
斎藤氏が知事に就任した昨年8月は、第5波の真っただ中。井戸敏三前知事が決めた対策を引き継ぎ、緊急事態宣言下の対応を経験した。解除後は次の波に備え、保健所の支援に派遣する県職員千人の養成などに努めてきた。
第6波への対処はいわば、本格的に危機管理の手腕が試される機会だった。しかし、まん延防止の要請基準を「病床使用率が35%超」と示した大阪府の吉村洋文知事に対し、兵庫は社会経済活動を重視し、大阪よりも使用率が悪化していたにもかかわらず、判断の曖昧さが際立った。
斎藤氏は3知事会議に際し、「なぜ大阪は35%にこだわるのか。兵庫はもうもたない」と周囲に漏らし、両府知事にも非公式に窮状を伝えた。だが結局、要請の決定は大阪の基準に達した先月20日にずれ込んだ。
県幹部の一人は言う。「判断を先延ばしにし、大阪に合わせたと見られても仕方ない。大阪の追随を嫌った井戸前知事なら違ったはず」
■少数で決定、慎重な物言い
政治的な判断を鈍らせた背景には、ガバナンス(組織統治)も影響している。
20年続いた井戸県政では、県内を知り尽くした井戸氏のトップダウンが浸透し、知事の顔色ばかりをうかがう組織体質となった。
これに対し、斎藤氏は「知事が大きな道筋を示し、そのほかは各部局に任せる」と指示。職員の自由な発想や提案を歓迎するボトムアップ型の組織を目指す。
その姿勢を支える屋台骨が、斎藤氏肝いりでつくった「新県政推進室」だ。東日本大震災後、総務省から宮城県庁に出向した際、被災地支援で兵庫から派遣され、交流があった職員ら11人で足元を固めた。
井戸県政時代、本庁や県民局の幹部ら総勢約30人を集め、重要政策を決めていた会議を縮小。施策を迅速に進めるため「長時間、幹部が知事の話を聞くのは合理的ではない」とし、推進室の一部メンバーら少人数で決定している。
しかし、この転換は、県政の意思決定が「密室」になったと波紋を広げる。斎藤氏はメディアへの露出を増やし、情報発信を強化したが、慎重な物言いは官僚的で、踏み込んだ発言を避けている。
推進室のメンバーですら戸惑いを口にする。「知事の真意や本音が伝わってこないという職員の声が、日増しに大きくなっている」
■行財政改革 反発招き苦慮
知事選で声高に訴えた財政再建の手法も見直しを迫られている。
斎藤氏は昨年12月、コロナ禍で税収の鈍化を見込み、行財政運営方針の見直し案を発表。「持続可能な財政、県政運営に向けた第一歩だ」と力を込めた。
老朽化した県庁舎の建て替えやアリーナの建設など、井戸氏が意欲を示した大型事業を相次ぎ撤回。地域活性化のため、市町へ配分してきた約10億円の交付金を廃止し、反発が予想される事業にもメスを入れた。
思い入れの強い改革にもかかわらず、発表後、市町の首長向けに開いた説明会に斎藤氏の姿はなかった。首長たちは「なぜ、知事が説明してくれないのか。思いを語るべきだ」と批判。市町を軽視したかのような対応も反発を招いた。
見直し案には、市町から200件以上の意見が寄せられた。県議会には「唐突すぎる」と突き返され、修正案を提示。市町への交付金は額を減らした上で廃止を1年先送りにし、新事業の創設を盛り込んだ。
斎藤氏は県議会で「県も市町も意識を変える必要がある」と財政状況への認識の甘さを強調。「就任直後の今だからこそ、姿勢を示す唯一の機会だ」と述べ、強気の姿勢を崩していない。だが、維新的な改革をほうふつとさせる案には、議会運営を左右する最大会派自民にも不満がくすぶる。
ある県幹部は「まだもう少し、譲歩することになる」と明かす。改革が揺らぐ中、斎藤氏のリーダーとしての覚悟が問われている。