斎藤氏、県勢浮揚へ大阪と共同歩調 「身を切る改革」にじむ維新指向 知事就任から半年(下)
2022/02/04 05:30
神戸新聞NEXT
昨夏の兵庫県知事選で初当選した斎藤元彦知事(44)は、自民党と日本維新の会による異例の共闘で誕生した。就任後は「身を切る改革」をほうふつとさせる自身の退職金カットや、大阪との連携強化など「維新指向」とも取れる政策を展開。一方、スムーズな県政運営のため、県議会では多数派を占める自民に軸足を置き、微妙なバランスの上に立っている。(紺野大樹、三島大一郎)
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「兵庫と大阪の港を経営統合し『関西港』をつくる。それぐらいしないと、釜山や上海と張り合うのは難しい。どうですか?」
昨年12月26日、関西の成長戦略を話し合うため、兵庫と大阪両府県のトップが初めて開いた連携会議。吉村洋文府知事(46)は、事前の打ち合わせにはない提案を突然、持ち出した。
大阪港と神戸港などを一体化し、浮揚させるアイデアに斎藤氏は「大事な視点。合理的な港湾の経営について議論は必要」と同調。管理者の神戸市の協力も必要だとする吉村氏に押され、次回以降、久元喜造市長を会合に招く約束をした。
会議は兵庫側から持ち掛け、大阪・関西万博を見据え、海上交通や観光分野での連携を中心に協議。斎藤氏には、維新の「顔」としても人気のある吉村氏との近さを示し、自身の存在や政策をPRする思惑もあった。
だが、議論は終始、斎藤氏が府財政課長時代の上司だった吉村氏がリード。維新政治に懐疑的な井戸敏三前知事ではあり得なかった府との緊密な連携に、自民県連幹部はいら立つ。
「あのような会議が開かれると『やっぱり斎藤知事は維新やな』と見られる」
■政策面は自民尊重でバランス
知事選で生じた政党間や自民内のしこりは、斎藤氏が就任以降、県政運営に影を落としている。
昨年7月の知事選では、候補者選定を巡り、県議会最大会派の自民が分裂。斎藤氏は会派を離脱した県議らに担がれ、党本部も推薦した。一方で元の会派は対立候補の元副知事を支援し、党内が割れた。
斎藤氏は維新の推薦も受けたが、自民が選挙戦を取り仕切り、資金を援助したのも自民の国会議員らだった。当選直後から「軸足は自民にある」と、分裂した2会派を重視する姿勢を強調していた。
ところが就任早々、自身の退職金を半額にし、給料とボーナスの3割カットを断行。徹底した行財政改革を唱え、随所に維新流の改革がにじむ。
一方では、バランスを取るかのように、政策面で自民県議らの意見を尊重。知事がリモートワークを実践する目玉施策「ワーケーション知事室」で真っ先に足を運んだのは、選挙戦で中核を担った自民県議の地元だった。
「安定した県政運営をするには、少々やりたいことを諦めても自民を重視するしかない。ただそれも、いつまで続くか」。他党の関係者は、維新の動向が県政をも左右するとみる。
■斎藤氏を足掛かりに議席増へ
大阪での政治基盤に頼ってきた維新にとって、推薦した斎藤氏の知事就任は、兵庫にも浸透する大きな足掛かりとなりつつある。
昨秋の衆院選は吉村氏の人気も背景に、公示前の11議席から41議席に躍進。県内は比例復活を含め、擁立した9人全員が当選した。一方で、県議会では衆院選や首長選へのくら替えも重なり、議員はわずか5人にとどまる。
維新の門隆志県議は先月、行財政改革を議論する特別委員会で「次の県議選で1議席でも多く獲得し、知事と一緒に県政改革を進める」と公言。来春の統一地方選を正念場と見据える。
県政運営では現在、斎藤氏との直接的な連携はないが、維新県組織の幹部によると、改革の進展や大阪との協力姿勢が結果的に維新を後押ししているという。「都市部以外への浸透は鈍かったが、斎藤氏の存在が維新のいいイメージを県内に広げている」と期待する。
こうした動向に、自民県連幹部は神経をとがらせる。「維新が議席を伸ばせば、県政に口出しする機会が多くなる。大阪からの要求が増えるのも確実だろう」。斎藤県政の足元が揺れ始めている。