本で知る沖縄 人気ロックバンド「かりゆし58」前川真悟さん 悲しみを知り、前を向く
2022/02/23 19:00
前川真悟さん
今回の案内人は、沖縄県の人気ロックバンド「かりゆし58」のボーカル、前川真悟さんです。母への感謝を歌った名曲「アンマー」などで知られ、阪神・淡路大震災にまつわるライブに出演したことも。現在は、沖縄県の本土復帰50年の節目を地元の若い世代と共に前向きに迎えようと活動しています。
1冊目は言わずと知れた灰谷健次郎さんの名著「太陽の子」(理論社、角川文庫)。ウチナーグチ、沖縄の言葉では「てだのふあ」です。
神戸の街で暮らす主人公・ふうちゃんのお父さんは、沖縄戦のため心の病気を抱えています。
僕がこの本と出会ったのは小学生のとき。スクールバスに乗り遅れ、ぽっかり時間が空いた日に、父の本棚で見つけました。戦争という悲しい出来事を扱っているのに、悲観的な気持ちにならなかった。ふうちゃんや周囲の人たちを、とても温かく描いているからでしょう。
特に、ふうちゃんの両親の店によく訪れるギッチョンチョンとギンちゃんの会話が印象的です。
「沖縄には、かわいそうなんて言葉はないんじゃ」
「肝苦(ちむぐ)りさ(胸が痛む)か」
僕たちは戦争を経験したオジーやオバーたちの痛みを100パーセント理解することは難しいけれど、悲しみに寄り添って、思いを継いでいくことが大事だ。そんなふうに感じさせてくれる一冊です。
次は、有川ひろさんの「アンマーとぼくら」(講談社、文庫も)。沖縄に数日間里帰りした主人公が家族との思い出の地を巡るうち、不思議な体験をする-という物語です。
アンマーはウチナーグチで、お母さんのこと。この本は、僕らがインディーズ(自主制作)時代に出した曲「アンマー」から有川さんが着想を得て書いてくれた、縁が深い作品です。
執筆にあたり、有川さんは残波岬などの名所を訪ねたそうです。僕たちが生まれ育った島の景色や人のつながり、大切にしている精神みたいなものが丁寧に描かれていて、ウチナーンチュには当たり前過ぎて気付かなかったことを、そっと教えてくれる気がします。
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「かりゆし58」は、高校時代の同級生で2005年に結成しました。初期には、故郷の歴史と向き合おうと、(沖縄戦が事実上終結した)6月23日、「慰霊の日」にスポットを当てた「ウージの唄」なんかを制作したんです。でも、(石垣島出身の3人で活動する)BEGINさんが、戦時中に我慢を強いられた歌や踊りを楽しもう-という趣旨で「うたの日」というイベントを続けていることを知って。悲惨な経験を書き残すことも大事だけど、それもひっくるめて、前を向いて希望を歌おうという思いに変わってきました。
最近では、地元の友人らに声を掛けてもらい、中学生と一緒に進めている活動もあります。「春」をテーマに絵やメッセージを寄せてもらい、そこから僕が曲を作る、というプロジェクトです。
もう一つは、沖縄観光のメインストリート・国際通りに雪を降らせたい。笑い話ですが、50年前に「復帰したら沖縄にも雪が降るらしい」といううわさがあったそうです。人工雪でも、南国に降ったらおもしろいでしょう。地元のかき氷屋さんも協力してくれそうです。雪に触れたことのない子どもたちが喜んだり、驚いたりする姿を思うと、ワクワクします。
復帰から、今年で半世紀。コロナ禍で制約はありつつも、楽しく生きていけるよう、いろいろ種をまいていきたいと思っています。
(聞き手・久保田麻依子)
▽まえかわ・しんご 1981年沖縄県八重瀬町生まれ。4人組バンド「かりゆし58」のボーカル、ベース。2006年発表の「アンマー」で日本有線大賞新人賞。最新作は「Heart Beat」。