「名所」支える“ウメ守”の愛 憩いの場に広がる早春の色香 神戸・岡本梅林公園
2022/02/23 15:55
きれいな紅色に咲いた「大盃」をめでる堤健さん。高台にあるため、花の背景に東灘区の街並みが見渡せるのも岡本梅林公園の特徴という=2月中旬、神戸市東灘区岡本6
神戸市東灘区の阪急岡本駅北側にある岡本梅林公園で、ウメの花が見頃を迎えている。寒波の影響で例年より1週間ほど開花が遅れたが、全約40品種のうち、紅色の「大盃」や八重の「鹿児島紅」など約30種が咲き、ほのかに甘い香りを漂わせながら園内を彩っている。ウメの保全を手掛ける「ウメ守」にウメの魅力や活動の原点を聞いた。
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■魅力は「品種の多様さ」
「梅は岡本、桜は吉野-」とうたわれるなど大正末期まで名所で通った歴史にちなみ、1982年に市が整備。現在、約5400平方メートルの敷地に計約200本が植わっている。
園内のウメの保全活動に携わるボランティアグループ「梅一つ火会」の事務局長、堤健さん(78)にとってウメの魅力は、その品種の多様さにあるという。紅の濃淡に白、一重に八重、きれいに波打ったり丸みを帯びたりと、一つ一つの花に特徴がある。一本の木から紅白両方の花が咲く現象があるので「宝合わせ」、花びらの表は淡色、裏が赤いので「旭鶴」など、「名前を覚えていくと、より見るのが楽しくなる」ところも愛すべき点なのだそうだ。
同会は10年ほど前から、どの品種がどこで見られるかを一覧できるよう、1本単位で植わっている場所が分かる詳細な「うめマップ」を発行している。裏面には全品種の花の写真と簡単な特徴をまとめた図鑑も載せ、内容を毎年更新しながら公園の入り口などで無料配布している。
また、神戸シルバーカレッジでパソコン教室に取り組んだ経験から、岡本梅林公園のホームページを新たに作った。ウメの季節になると2日に1回は堤さんが園内を巡回し、開花した品種数、木の本数をこまめに更新する。過去2年の開花ペース、神戸市内の平均気温の推移と比較できる折れ線グラフを掲載する徹底ぶりだ。
■行事はなくてもウメは咲く
新型コロナウイルス禍で、恒例イベントの「摂津岡本梅まつり」は2年続けて中止が決まった。だが、堤さんに悲壮感はない。
取材に訪ねたのは2月中旬、平日の日中だったが、ベビーカーを押す母親や、高齢の夫婦らが次々とやって来る光景を見ながら、堤さんは「もう十分親しんでもらえてる実感があるから、イベントにはこだわりません」としみじみ言った。
水害や戦災、宅地開発で失われてきたという岡本のウメ。70~80年代に市が岡本梅林公園のほか「保久良梅林」など区内3カ所にも観梅エリアを整備し、阪神・淡路大震災後は復興の一環で毎年、甘酒を振る舞う「梅まつり」が岡本梅林公園で開かれるようになった。
堤さんは大学卒業後に上京し、定年退職後に故郷の東灘区に戻ってきた。シルバーカレッジの課題研究の一環で2004年、東灘区内にあるウメの木の数を調べると、1019本あった。「もっと増やして、もっと知ってもらえないか」と、同カレッジOBの東灘区在住者が集まって、梅一つ火会を結成した。
ウメを1本植えるにはおよそ5万円かかるため住民らに寄付を募ったところ、16年までの13年間で1117人からの協力を得られ、植樹を進めてきたという。
■区民が認める「東灘の花」
今後は地元の岡本商店街などと協力し、園内のウメの木をまだあと50本増やして250本程度にする計画という。また、東灘区全体でウメの本数を調べる現地調査も続けており、21年は、調査を始めた04年の約4倍に当たる4179本が確認された。
そして、堤さんがそれ以上に胸を張る、もう一つの調査結果がある。これも04年に始めたアンケートで、「東灘区の花」がウメであることを知っていると答えた人が当初はわずか1割だったのに対し、直近の4、5年前には約9割に上ったことだ。「徹底してやってるからね。もっと頑張るよ」
ウメ愛にあふれる堤さんが、笑顔の花を咲かせた。
岡本梅林公園では2月中旬時点で紅梅や、白い「冬至梅」など約130本の開花が確認された。一つの枝で淡紅、紅、白色に咲き分ける「思いのまま」などの中咲き品種がこれから、遅咲きの品種だと4月上旬まで楽しめる見込み。