「時短協力金」くすぶる不公平感 満額受給なら最大1千万円超、食材卸業などには支援届かず
2022/03/13 20:10
時短協力金の受領証(写真の一部を加工しています)
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間短縮の要請に応じた飲食店に支払われる協力金の制度が始まって1年近くが過ぎた。兵庫県内では2021年、無休で営業する小規模店が満額受給を認められた場合、最高額は計算上、1137万円に上った。「足りない」という声の一方で、例年の利益をはるかに上回った店もある。対象にならない食材卸売業などは売り上げを大幅に落としており、不公平感は根強い。(山脇未菜美)
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■満額受給のケースはなし
県によると、県は国の協力金制度を21年1月に導入。同年の協力金は第1期から9期まであった。対象は飲食店やバー、スナック、カラオケ店など。時短のほか、アクリル板設置や手指消毒の徹底、感染防止ポスターの掲示などが義務付けられる。
1~2期の支給額は規模によらず一律だったが、3期途中からは地域や店の規模によって金額が変わった。前年度か前々年度の1日の売り上げに応じて単価が決まった。計9期までの支給件数は各期とも2万5千件前後だった。
県への取材に基づいて1店舗(小規模店)に対する1年間の計算上の最高額を算出したところ、要請期間が長かった神戸・阪神間や姫路市、東播磨で1千万円を超えた。実際に満額受給するケースはなく、時短の実績に応じて支給された。
和食店を経営する70代男性は、協力金は1~9期まで申請。計803万円が振り込まれた。売り上げは1日2万~7万円と減少したが、協力金に助けられた。家賃(月額12万円)や光熱費、仕入れ、従業員の給料(月額約20万円)などを差し引いても、例年の利益額1500万円を上回った。
気に掛けるのは、協力金の対象外となる仕入れ先の鮮魚店や酒店だ。政府の一時支援金は「売り上げが50%以上減」が条件で、ハードルが高い。おしぼりや箸袋の業者は収入減で人員を削減した上、無料配達をやめたという。
男性は「協力金をもらえる人ともらえない人、不公平感はありますね」と複雑な表情を浮かべた。
■前例なき制度、支援に格差
コロナ禍の2年目、もっぱら規制の対象となった飲食店の窮状を救うために県内でも導入された協力金制度。規模によって差をつける仕組みに改めたものの、例年以上の利益を得る店と赤字を埋められない店、飲食店と対象外の関連業者との間の不公平感は残る。
兵庫県経営商業課の担当者は「制度は国が基準をつくっているので、県が言えることはない。ただ、制度から漏れる人や受給額が足りない経営者もいる。県としては、地元商工会と協力して経営相談の窓口を充実させるなど、さまざまな策を用意している」と話す。
慶応義塾大学経済学部の小林慶一郎教授は「制度は前例がなく、対象や金額など政府は分配が難しかったと思うが、支援に格差があったのは否定できない。解決策としては、個人の所得を把握した上で、平等に配分すること。確定申告で店の収支を確認するなどし、規模や固定費に連動した金額を払う工夫が考えられる」と話す。
■節税に取り組む事業主も
個人事業主が受け取った時短協力金は事業所得に区分され、所得税が課税される。利益が増えた場合は課税額も増えるため、節税に取り組む事業主もいる。一方で、固定費がかさむ一定規模以上の店主は「黒字なんてほど遠い」とため息をもらす。
協力金によって前年を超える利益を得た和食店主の男性が、税理士から税金対策を持ち掛けられたのは昨年11月だ。一般的に、30万円未満の備品を購入し経費計上することで納税額を減らせる。男性は助言に従い、古くなっていた冷房機具の更新を検討した。
県内の自動車販売店では昨年10月、30万円未満の中古車3~4台を1週間ごとに購入したいという飲食店経営の男性が訪れた。車は翌年、買い取ってほしいという。店主が理由を尋ねると、男性は「節税対策」と話したという。
尼崎市内の税理士は、短期間での売却を前提とした備品購入について「時と場合によって、税務調査で指摘される可能性もある」と指摘する。
一方、神戸市内の飲食店長の男性(43)は「固定費がかさむ中規模、大規模店には、協力金は全く足りていない」と話す。今回の時短要請は酒類を提供せずに時短営業するが、1、2階計110席に客の姿はまばら。赤字が膨らみ、運転資金を借金している。
男性は「協力金はありがたいが、例えば納税額を基準にするなど、実態に応じた制度設計をしてもらいたい」と訴える。(山脇未菜美、井上太郎)
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