「署長感謝状」女性に冷やかし電話や書き込み… 匿名コメントにもやもや【記者コラム】
2022/04/10 20:00
神戸新聞NEXT(よこてさとめ/stock.adobe.com)
駆けだしの警察担当記者をしている私にとって、楽しみにしている取材がある。それは「署長感謝状の贈呈式」。特殊詐欺被害を未然に防いだり、人命を救ったりした市民に贈られる。
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入社2年目。悲しくてやるせない事件を取材することが多いけれど、受章者たちが緊急事態に遭遇した時の思いや経緯を聞くたびに心が温かくなる。とっさの機転や、いざ行動に移す勇気をたくさんの人に知らせたいと思って記事を書く。
でも先日、感謝状を受け取った若い女性からの言葉に耳を疑ってしまった。
「最近、嫌がらせをされるんです」
アルバイト先のコンビニ店で客の高齢女性のしぐさを不審に思い、振り込め詐欺に遭うのを未然に防いだ。それが記事になってから店に電話があり、何者かが「○○ちゃん? ○○ちゃんだよね?」と名乗らずに呼んでくる。何度かはぐらかしても、しつこくかけてくるというのだ。
ネット上ではからかいの匿名コメントも。「その年齢でアルバイト?」「結婚してアルバイトでもしているんじゃないか?」。軽い気持ちの書き込みだとしても、背中がゾッとした。
女性を匿名で書けばよかったのかな…と悩んでしまう。でも、本当に実在するか分からない記事よりも、誰なのかを伝え、事実を身近に感じてもらった方が、同じ状況に居合わせた時を想像しやすいと思う。そうして人が助け合い、同じ被害が減るという前向きなリレーにつながってほしい。
「なかなかできることじゃないよ」「若いのによくやったね」。女性は記事を見た人たちに声を掛けられ、新聞を届けてくれた知人もいたという。そんな反響にほっとしつつ、匿名で浴びせてくる悪意が残念でならない。
もやもやとした気持ちが消えないでいる。(浮田志保)