試合会場だけじゃない、貸農園に保育園… 多機能化進むサッカースタジアムの今
2022/04/19 11:45
スタジアムのそばに設けられた農園。都市部で野菜を栽培できると人気だ=神戸市兵庫区御崎町1(撮影・久保田輝)
ヴィッセル神戸が使用する「ノエビアスタジアム神戸」(ノエスタ=神戸市兵庫区御崎町1)など、サッカーのJリーグクラブのホームスタジアムで、これまでになかった多機能化が進んでいる。貸農園や保育園、eスポーツ施設…。単なる試合会場ではなく、地域によるニーズの受け皿としても存在感を高めている。(尾藤央一)
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ノエスタの屋根を借景に、ミズナやイチゴの緑が美しく映える。ヴィッセルの運営会社で、ノエスタの施設管理を担う「楽天ヴィッセル神戸」が昨年3月にオープンさせた貸農園は、元駐輪場のスペースを転用した広さ約300平方メートル。1区画は4平方メートルで、初めの1年は24区画がすべて利用され、ジャガイモやトマト、イチゴなどが実った。
利用者は30~40歳代の周辺住民らでリピーターも多く、2年目の現在も8割以上が契約済みとなっている。貸農園を担当する米澤崇さん(47)は「Jリーグでは初の試み。遠出をしなくても(栽培を)楽しめる魅力がある。トウガラシを育て、キムチに使う人もいますよ」と笑う。
貸農園の取り組みは、国が進める成長戦略「スタジアム・アリーナ改革」に沿ったもの。同改革の一つに、民間活力を活用して、スタジアムを多様な世代が集まる交流拠点と位置づけることが挙げられており、2025年までに全国で20拠点を整備する。ノエスタは20年度、ITデータを活用し、稼働率を想定した投資改修計画を立てるなどしたことが評価され、対象に選ばれた。
貸農園のほかにも、就園前の子どもと保護者が気軽に遊ぶことができる「親子ひろば」を整備した。今年2月には、既存のスポーツクラブを改装。壁に選手らの写真をあしらい、元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ選手(37)と現役日本代表FW大迫勇也選手(31)の姿も。ヴィッセルは今後、選手を起用したストレッチのオリジナル動画の放映なども予定している。
神戸の菊地隆之スタジアムエンターテイメント部長(46)は「オンリーワンのスタジアムを目指す。神戸のランドマークとして気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたい」と意気込む。
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一方、今季、12年ぶりの1部(J1)復帰を果たした京都サンガの取り組みも注目を集める。20年に完成した本拠地「サンガスタジアムbyKYOCERA」(京都府亀岡市)は、高性能パソコンが並ぶ「eスポーツゾーン」を備える。競技大会や、小中学生向けのプログラミング教室などが開かれ、問い合わせも増えているという。
また、1階の空きスペースには昨年、0歳から2歳までを対象にした保育園をオープンさせた。Jリーガーがしのぎを削る芝生のピッチを、試合がない日は園庭として活用。スタジアムに併設された保育園は全国初といい、30人の定員に達している。
指定管理者として同スタジアムを運営する「合同会社ビバ&サンガ」の職務執行者、小森敏史さん(43)は「試合日以外も人材育成とイノベーションを創出するスタジアムにしていく」と展望を語る。
スポーツ科学が専門で、マツダスタジアム(広島市)の設計などに携わった追手門学院大の上林功准教授は「(サッカースタジアムは)以前はスタンドの下の機能が少なかったが、周辺や空きスペースをうまく利用し、地域や社会に開放することが増えてきた」とし、「成長には、時代に合わせて改修や交換できることも重要。すでに存在している周囲のビジネスを圧迫せず、地元にとって必要なことは何かについても考えることも大切だ」と話す。