JR赤字路線公表で波紋 沿線から存続への願い強く「廃線なら通学できない」 参院選でも議論を

2022/07/01 20:00

平日の昼間。人影のないJR加古川線の西脇市駅=西脇市野村町

 JR西日本が管内の赤字ローカル線を公表し、波紋が広がっている。兵庫県内では加古川、山陰、播但、姫新線の4路線6区間で、利用者が少なく運営が厳しい状況を明らかにし、存廃を含む議論を求めた。国や県、沿線自治体が対応策の検討を始める中、対象とされた現場を訪ねた。(上田勇紀) 関連ニュース 「赤字だから切り捨てるのか」 ローカル線自治体の首長ら憤り JR西、収支初公表 国鉄時代の「名車」103系、なぜか兵庫に多いんです ローカル線でのんびり余生 【写真】谷川方面から加古川線で通う西脇工業高校の生徒たち。路線の赤字公表を伝える記事に目を通す

通学の足
 6月下旬、平日の昼間。JR加古川線の西脇市駅に、人影はなかった。
 赤字区間とされる丹波市の谷川駅までの列車は、午前10時10分に出発すると、午後1時41分発まで3時間半来ない。逆方向の加古川方面行きも昼間は1時間に1本だけ。ホームは静まり返っていた。
 西脇市駅が最寄りの県立西脇工業高校では、全校生徒554人のうち5人が谷川方面から加古川線を利用する。本数が少なくても、生徒たちにとってはかけがえのない通学の足だ。
 西脇市北部の本黒田駅から乗車する藤本彩花さん(18)は、朝夕のわずかな本数に合わせて時間をやりくりして通学している。「赤字のニュースはショック。廃線になってしまうと通えないかも」と不安そうな表情を浮かべる。
 野球に打ち込む伊地知大翔さん(17)は毎朝、伊丹市の伊丹駅から福知山線で谷川駅に向かい、加古川線に乗り換えて2時間がかりで登校する。西脇市の船町口駅から乗り込む松田果梨菜さん(17)も「本数は増やせなくても、なくさないで」と訴える。
輸送密度
 JR西は4月、県内の加古川線(西脇市-谷川)▽山陰線(城崎温泉-浜坂、浜坂-鳥取)▽播但線(和田山-寺前)▽姫新線(播磨新宮-上月、上月-津山)-の4路線6区間が、2017~19年度平均で2億7千万~11億8千万円の赤字だったと公表した。
 西脇市-谷川の場合、1キロ当たりの1日平均利用者数を示す「輸送密度」は、1987年度に1131人だったが、19年度は321人に減った。17~19年度平均の採算は2億7千万円の赤字だった。加えて20年度以降は各路線で、新型コロナウイルス禍の利用減に見舞われている。
 各沿線には高校や病院などが点在しており、県は阪神・淡路大震災の際を例に、災害時の代替路線としての役割も強調する。沿線市町は国土交通省に路線維持に向けた支援を要望した。観光客を呼び込むとともに、マイカー文化が根付いた沿線住民の利用増を促す。
消えた王国
 一方で、兵庫県多可町の小嶋明さん(74)は「利用促進策には限界がある。路線を維持するにはもっと踏み込んだ対応を」と指摘する。90年に廃止されたJR鍛冶屋線の存続運動に汗を流した経験がある。
 鍛冶屋線は西脇市と現多可町の13・2キロを結んだ。80年代に赤字ローカル線の廃止が相次いだことから、路線を維持したい沿線の若手商店主らが84年、鍛冶屋、中村町など七つの駅名の頭文字を並べた「カナソ・ハイニノ国」という架空の王国を立ち上げた。
 存続を願う「国民」に月1回の乗車義務を課し、「国債」発行、城崎温泉へのカニ列車運行などに取り組んで注目を集めた。しかし、結果的に廃線は止められなかった。「最寄り駅がなくなった。廃線になって不便さを痛感した」
 小嶋さんはいま、線路などの鉄道施設を自治体が所有し、鉄道事業者は運行に専念する「上下分離方式」の導入を推す。自治体側の財政負担は小さくないが「道路のように社会基盤として必要というなら、それだけの覚悟が必要」と力を込める。

兵庫県内の赤字路線維持へ、県と沿線自治体などが協議会
 兵庫県は6月下旬、JR西日本の県内赤字路線の維持活性化策を検討する協議会を開いた。県や沿線自治体が路線維持を前提としたのに対し、JR西は鉄道以外の交通手段も選択肢に含めた議論を求めた。協議会は利用促進の取り組みを有識者らと話し合い、来年1月に結果をまとめる方針だ。
 約20人が集まった初会合で、斎藤元彦知事は「いかにいまの路線を活性化するか。官民連携で課題解決につなげる」と強調した。
 一方、JR西の国弘正治・神戸支社長は「利用減少に対する経営努力は限界に到達している。鉄道にこだわらず多様な交通サービスを総動員して考える必要がある」と強調した。
 さらに「これまでもさまざまな利用促進策が展開されたが、抜本的な問題解決に至らない」とも述べた。その上で、利用促進には目標設定や結果検証が重要との認識を示した。
 JR西は中国地方でも赤字路線を公表している。鳥取県の平井伸治知事は「廃線前提の協議に応じるつもりはない」とし、鉄道など公共交通の利用を促す県民運動を始めた。
 通勤手段をマイカーから転換するなど成果を上げた企業・団体に、10万円の奨励金を支給する施策などを柱に据える。ただ鳥取県内も車移動が中心の地域が多く、効果のほどは見通せていない。
     ◇
 神戸新聞社は参院選兵庫選挙区の立候補者に実施したアンケートで、JRの赤字路線について尋ねた。選択式だが「やむを得ない」「JRの判断に委ねる」との回答を選んだ候補者はなく、「地域住民の重要な交通機関なので廃止すべきでない」を選んだ候補者が最も多かった。

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