「戦火の苦難を自分ごとと感じて」 映画「島守の塔」五十嵐監督、沖縄戦にウクライナ重ね

2022/07/28 05:30

「若い俳優の熱演が作品を熟成させてくれた」と話す五十嵐匠監督=神戸新聞社(撮影・中西幸大)

 太平洋戦争末期の沖縄戦を描いた映画「島守の塔」が、8月5日からキノシネマ神戸国際など兵庫県内各地で公開される。20万人以上が犠牲になった沖縄戦の過酷さは、民間人を巻き込んで広がるウクライナの戦火と重なる。公開を前に、五十嵐匠監督は「この映画を見た若い世代が、遠い国の苦難を自分のこととして感じてくれるきっかけになれば」と願う。(津谷治英) 関連ニュース 吉岡里帆さん「あったはずの未来、失われた命。心がつぶされるような思い」 映画「島守の塔」 【写真】映画「島守の塔」の一場面 島田叡知事の沖縄戦とは 太平洋戦争末期、20万人が犠牲


 映画は戦火の中、沖縄県知事として住民保護に奔走した神戸市須磨区出身の島田叡(あきら)(1901~45年)の半生をたどる。島田を萩原聖人さん、知事を支えた荒井退造警察部長を村上淳さん、知事付きの職員「比嘉凛」役を吉岡里帆さん、現代の凛を香川京子さんがそれぞれ演じる。新型コロナウイルス禍による撮影中断を経て、約2年遅れの公開となる。
 島田は45年1月、沖縄に最後の官選知事として赴任。前年の空襲で焼け野原となった那覇市街地を前に荒井警察部長、職員の比嘉が迎える。「明朗にやろう」と皆を励ます島田。やがて悲惨な戦場に直面する。皇民化教育に洗脳された比嘉は、島田に「生きろ」と諭されるが、なかなか理解できない。容赦ない戦火は、そんな3人の運命をのみこんでいく-。
 俳優陣の熱演が作品を支える。製作に当たり戦史関連の資料を100冊読んだという五十嵐監督は「沖縄戦の傷は今も現地の住民の心深くに残る。複雑な背景を吉岡さんの役に託した」と明かす。ひめゆり学徒隊に代表される、傷病兵を看護した女子学生らの苦悩もリアルに描き、「学徒隊と同年代の世代に見てほしい。若い人らに戦争の悲惨さを伝えたい」と強調する。
 映画は神戸新聞社とサンテレビ、荒井の出身地の下野新聞社、沖縄の琉球新報社と沖縄タイムス社などが連携して製作。兵庫では8月5日からキノシネマ神戸国際、MOVIXあまがさき、同6日から元町映画館で上映される。

 ▽島田叡(しまだ・あきら) 1901年、神戸市須磨区生まれ。旧制神戸二中(現兵庫高)卒業後、旧制三高(現京都大)を経て東京帝国大(現東京大)へ入学。旧内務省に入省し、各地の警察部長、大阪府内政部長などを歴任。45年1月、最後の官選知事として沖縄へ。6月末に消息を絶った。

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