結婚式や披露宴、思い思いの場で 文化財、茶園…コロナ下、スタイルに変化
2022/08/11 11:00
国登録有形文化財「旧難波酒造」の前で写真を撮ってもらう吉川さん夫妻=神河町中村
新型コロナウイルス感染症の影響が長引く中、結婚式場やホテルを使わずに地元の建物で少人数の披露宴などを行う新郎新婦が増えている。日本遺産・銀の馬車道の沿線にある兵庫県神河町中村の国登録有形文化財「旧難波酒造」では、近くで生まれ育った新婦の提案で、フォトウエディングの撮影があった。和装の新郎新婦がプロのカメラマンに依頼し、古風な庭や地元の田園でさまざまな表情の写真を撮影。神崎郡内では同町内の茶畑や福崎町の大庄屋三木家住宅でも挙式の事例があり、祝いの風景が変わりつつある。(吉本晃司)
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■古里でフォトウエディング 神河・親族宅だった「旧難波酒造」
末広がりの8月8日、旧難波酒造(現・かみかわ倶楽部(くらぶ)春夏秋冬)に和装の吉川嗣人さん(34)と初衣(はつえ)さん(29)夫妻、長男の直嗣ちゃん(5カ月)、撮影スタッフ4人が訪れ、室内や庭で写真を撮り始めた。
吉川さん夫妻は昨年3月に結婚。式や披露宴はコロナ禍でできなかった。直嗣ちゃんの誕生前後、親族が相次いで亡くなり、「存在するものはいずれなくなっていく」との思いが強くなった。旧難波酒造は初衣さんの親族宅にあたり「古里の風景を写真に残せたら」と、写真館にフォトウエディングを依頼した。
カメラマンの東裕紀さん(41)は空を見上げて自然光を確認しながら、庭や縁側、建物前の通りなどで写真を撮影。立ち位置や表情を細かく注文し、直嗣ちゃんと3人での家族写真も多数取り入れた。初衣さんが子どもの頃に見慣れた田園でも、緑の稲葉の中に立つ番傘の2人を遠方から撮影し、壮大な風景に仕立て上げた。
同県姫路市で写真館を営む東さんによると、コロナ禍で写真撮影を依頼する新郎新婦が増え、「紙焼き写真をアルバムの形にしてしっかり残す人が多くなった」という。家族写真を中心に撮影してきた東さんは、「10年後、20年後に見ても恥ずかしくない、落ち着いた印象の写真を心がけている。どの地域もいいところはあるはず」と話し、家族が生まれ育った地域に出向いて思い出の場所で撮影している。初衣さんは「古里の風景を生かしたフォトウエディングや結婚式が広がってほしい」と話す。
旧難波酒造が国の登録有形文化財になり、管理運営は社会福祉法人に移った。現在、日中はカフェレストランとして営業しているが、平日の午後3時半以降など営業時間外であれば、写真撮影などの要望に応じることが可能。かみかわ倶楽部春夏秋冬TEL0790・31・2111
■神河・事業継承した茶園 工場に宴席お茶提供
神河町吉冨の茶園「仙霊」では、オーナーの野村俊介さん(44)、久美さん(39)夫妻が今年5月、茶畑で式を挙げた。屋外のカフェで俊介さんがお茶を提供したり、工場内に宴席を設けたりと、独自のカジュアルな式が話題になった。
企画は久美さん。脱サラして4年前に茶園を事業継承した夫妻らしく、「普通じゃないオリジナリティーあふれた式にしようと思った」といい、スタッフ含め約30人が参加した。新郎新婦はこの日のために作ったオーバーオールを着た。
茶園で式や披露宴をしたいという人には、場所を提供することも可能。話があれば結婚式プランナーにつなぐという形を取るが、「規模や内容は無限に自由」という。仙霊TEL050・3138・4284
■大庄屋の邸宅貸し切りOK 福崎・県重文「三木家住宅」
福崎町西田原の県重要文化財「大庄屋三木家住宅」は、主屋など全客室7室を借り切っての結婚式ができる。2020年3月から今年7月までに29件の式があり、おおむね月1件ペースで開かれてきたが、今後は月数件のペースで予約が入っているという。
三木家住宅は主屋、離れ、酒蔵などが江戸中期から明治期に建てられ、現在は町有施設。少年期に三木家に預けられた柳田国男が大量の書物に囲まれて読書にふけったエピソードでも有名だ。
貸し切りの式は1日1組。運営会社によると、式の参加者は1回平均13人。新婦の6割が30歳以上と、少人数に抑え、落ち着いた和の雰囲気を楽しみたい新郎新婦に人気という。式と宿泊をセットにしたプランも可能。宿泊は10人まで。NIPPONIA播磨福崎 蔵書の館TEL0120・293・958