「焼きと中華!」定番はダブル麺 明石にまだあった、ひそかな名物

2022/10/29 20:25

「焼きと中華」と注文する麺ダブル食い=江洋軒

 兵庫・明石のソウルフードといえば玉子焼き(明石焼き)だが、隠れた逸品が「きしめん」-と1月に紹介したところ、賛同の声の一方「焼きそばもあるで」「学生時代の思い出の味」などと物言いがついた。ならばと店を訪ねると、たくましい体の男性が「焼きと中華!」と注文している。え? どういうこと? 横目で見ていると、運ばれてきたものは…。(松本寿美子) 関連ニュース 【写真】赤いひさしが目印の「江洋軒」。店先にソースの香りが漂う 明石でなぜ「きしめん」? 玉子焼に負けない隠れソウルフード 始まりはスパゲティ専門店 甲子園18度出場の名将も愛した味 球場の験担ぎグルメ「玉子ごはん」が話題


 明石駅南の明石銀座商店街。東側の路地に入ると、ソースの何ともいえない香りが鼻をくすぐる。そこに赤いひさしの「江洋軒(こうようけん)」(明石市桜町)がある。
 テーブルに運ばれてきたものは、何と、焼きそばと中華そばだった。なんだこれは…。初めて見る光景を凝視する。関西人ながら、お好み焼きとご飯を同時に食べるのも信じがたいと思ってきたが、麺のダブル食いとは。
 明石高校生時代から56年間通い続ける元兵庫県職員(74)は「(ダブル食いは)定番ですよ」と言い切る。「400円と安いんだけど両方とも量が少なめなので、もう一品となる。まず冷めやすい焼きそばを、後で熱い汁の中華そばを食べるのがいい」と話す。
 さらに「黒いソースの焼きそばを白いこしょうまみれにするのがおいしい。おなかがあまり減っていないときは、中華でなくワンタンスープ。これがまたおいしい」と熱っぽく勧める。
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 江洋軒は1948年、現オーナーの沖谷美佐雄さん(72)の母親安子さんが開業した。その弟の敏広さんに引き継がれ、サラリーマンだった沖谷さんが27歳で継いだという。
 創業当初からの味を守り続け、焼きそばは太麺に数種類をブレンドしたソースをからめ、刻みキャベツと刻みねぎ、自家製チャーシューが乗る。中華そばはとんこつ味でチャーシュー、もやし、メンマ、刻みねぎが添えられている。いずれも400円と懐に優しいが、11月からは450円に上がるという。
 70年以上続く店で麺ダブル食いはいつ始まったのか。沖谷さんは「物心ついたらありました。ご覧の通り安くて小ぶり。麺量は多分他店と変わらないが、具がシンプル。でもご飯系がないので、麺を両方頼む人が出てきたんかな」と語る。
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 店では午前中から年配男性が瓶ビールや焼酎で一杯やる姿もあり、気楽な雰囲気。明石市の親子(91、57歳)は「3日に1度は来る」といい、客は途絶えないが「昔はもっと夕方に部活終わりの学生らが多かったけどね。ファストフード店に押されて少なくなったね」と沖谷さん。
 私も「焼きと中華」を注文した。焼きそばが来て、時間差で中華そばが到着。沖谷さんスタイルに倣い麺の交互食べをしてみた。あっ、全然いける。ソース味と、とんこつスープ。脳内が混乱すると思いきや、いい気分転換に。味と食感が全く違うので、ダブル麺にも飽きずに完食できた。
 沖谷さんは「そうでしょう」とにっこり。「お客さんにおいしいと言われるのをやりがいに誠意を込めて続けている。これからも変わりません」と話す。火曜定休。火曜が祝日の場合は水曜に休む。午前9時半~午後8時15分(ラストオーダー)、平日は午後3~5時に休憩。江洋軒TEL078・911・3765
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■ダブル注文名店でも 岐阜の「信濃屋」は3種類
 江洋軒に何度も行っているという日本コナモン協会会長の熊谷真菜さん(61)=大阪府=は「(動画投稿アプリの)ティックトックなどにアップすると必ずバズる(話題になる)。人気があるんですね」と話す。
 麺のダブル注文には「全国の名店によくあること」という。温うどんと冷たい「ころうどん」、ラーメンの3品がある岐阜県多治見市の「信濃屋」を例に挙げ「量が並より少なめでどうせなら3種類食べて帰ろうかとなる」と説明。同店オーナーの滝晶宣さん(74)は「ころ2杯とラーメン1杯の注文が多いが、最近は3種類の人も増えてきたね」と語る。
 また、焼きそばと中華そばの組み合わせに、熊谷さんは「そもそも焼きそばと汁物は合う」といい、青森県のご当地グルメで焼きそばにスープをかける「黒石つゆやきそば」を例に挙げる。「ソースとおだしの相性はいい。玉子焼きにもソースのトッピングがあるんですから。おだしが口の中をまろやかにしてくれるんですよね。特にこれから寒い季節には体も温まる。庶民の知恵」と解説した。

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