兵庫県庁舎、どうなるの? 耐震性能「不足」で建て替えのはずが、知事交代で方針「白紙」状態に

2022/11/06 05:45

耐震性能が不足しているとされる県庁舎の(手前から)1号館と2号館。3号館(右端)のみ新耐震基準で建てられている=神戸市中央区下山手通5

 大規模地震に対し耐震性能不足と診断された兵庫県庁舎(神戸市中央区)の対策を巡り、議論が長期化している。井戸敏三前知事は建て替えを決めたが、昨年就任した斎藤元彦知事は新型コロナウイルス禍も踏まえて撤回。当面の対策として仮移転や耐震補強が挙がるが、難題が付きまとう。(田中陽一) 関連ニュース 県が行財政運営方針の見直し案公表 県庁再整備事業は撤回 県庁の新行政棟、28階タワーの方針 最上階に展望室 初代兵庫県庁を復元 兵庫津ミュージアム【動画】

■「防災拠点」に求める目標値下回る
 本庁舎は大きく1~3号館から成る。3号館(1990年築)のみ新耐震基準で建てられ、1号館(66年築)と2号館(70年築)は旧耐震基準で整備された。95年の阪神・淡路大震災では、いずれも壁の破損や天井の脱落はあったが、使用停止には至らなかった。
 震災後、1、2号館に耐震補強を施したがコンクリートの劣化が懸念され、2018年度に改めて診断。国が自治体庁舎など「防災拠点」に求める強度の目標値を下回ることが分かった。さらに1号館は、南海トラフ巨大地震などで想定される地震波で詳細診断をすると柱や壁、天井の破損で使えなくなると推定された。
■知事交代、コロナ禍で計画撤回
 井戸前知事は、大規模改修よりも庁舎を新設した方が費用面でも機能面でもメリットがあると判断。しかし、斎藤知事はコロナ禍での在宅勤務の広がりや行政のデジタル化も踏まえ、当初想定されていた規模での建て替えは必要ないとして計画を撤回した。
 庁舎の安全対策は「県庁再整備と切り分けて検討する」とし9月、2号館でも詳細診断を行う方針を示した。結果は本年度中に分かる見通しで、当面の対策はその内容を受けて判断するが、一筋縄ではいかない。
 県によると、1、2号館で働く職員は約2500人。民間ビルへの仮移転が候補の一つだが、県庁周辺でこの人数を収容するスペースの確保は厳しい。分散せざるを得ず、県幹部は「勤務エリアが六甲アイランド(同市東灘区)まで広がる可能性がある」とする。
 将来の県庁再整備を見据えると大規模な補強も難しい。2号館は1号館よりも強度があり、県は「詳細に診断すれば防災拠点の基準に届かなくても、民間ビル並みの耐震性能が確認される可能性はある」とみる。
 その場合は1号館のみ仮移転し、2号館は「南海トラフ級の地震が起きても継続して使える程度」の補強で済ませることも考えられる。県の担当幹部は「来庁者や職員の安全確保は最優先。早く方針を決めたい」とする。
■三宮、元町エリアの再開発との関係は
 県は、県庁舎の安全対策とは別に神戸・元町エリアの再開発も検討を本格化させる。
 井戸敏三前知事が県庁周辺を先行して2019年度にまとめた基本構想では、1号館の敷地に2号館と統合した新庁舎を建て、2号館の跡地には高級ホテルなどを誘致。事業費は維持費などを含めて最大720億円を見込み、25年度末までに新庁舎建設や2号館の解体を終わらせるスケジュールを想定していた。
 斎藤元彦知事は県庁だけでなく、JR元町駅周辺を含む再整備を構想。一帯の将来像を描く中で新庁舎の位置や規模、整備手法などを判断する方針で、「三宮やウオーターフロントとのすみ分けも含め、時間をかけて検討する」という。
 新型コロナウイルス禍でホテル需要は不透明になり、ウクライナ侵攻による建築資材の高騰や円安に伴う物価高も重なる。県幹部は「かつての計画はいずれにしても見直しを余儀なくされた」と話す。
 県は、都市開発の民間企業などから元町再整備の方向性についてヒアリングを進めており、地元団体や住民との議論も始める予定。三宮再整備を進める神戸市とも連携するが、県議会には「検討に時間をかけすぎると、先行する三宮に取り残される」と懸念する声もある。

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