「仕事で感染」証明難しくても…コロナ後遺症に苦しむ女性の労災認定 介護ヘルパー休職中、やっと一息

2022/11/08 20:10

豊田さんが記入した労災の請求書類

 新型コロナウイルスの流行「第8波」が懸念されるなか、過去の感染による後遺症に苦しむ人たちがいる。神戸市の女性は倦怠感が1年以上続き、生きがいだった仕事を休職。治療費で生活も苦しくなったが、知人から教わった労災の請求が認められ、やっと一息ついた。後遺症を含むコロナの労災請求は感染者数の0・4%にとどまっており、制度を知らない人も多いとみられる。(小谷千穂) 関連ニュース 「低用量ピル」広がるオンライン処方 コロナが利用後押し、女性のQOL向上に一役 手続きは?安全面は? 帰ってきたゆうちゃん 「絶望的、二つの病」抱えた少年、闘病の病院で医師に 未承認薬で奇跡の生還 まさか自分が生活保護に…コロナ禍で月収7000円、疲弊し抑うつ状態に 会社員が見つけた「人間らしい生活」

今も続く脱力感と目まい
 「マスクをしていると息が苦しく、しゃべるのもしんどい」
 豊田広美さん(73)=神戸市灘区=はかすれた声でマスクができない理由を説明し、距離をとってゆっくり座った。「訳の分からない脱力感と、夜には起き上がれないぐらいの目まいが今も続いています」
 コロナに感染したのは昨年4月。パートの介護ヘルパーとして利用者の入浴や買い物を手伝い、帰宅後、体調が悪くなった。
 手洗いやマスク、消毒はもちろん、エプロンやゴム手袋を毎回交換するなど対策は徹底していた。利用者と接触する場面は多く「どこで感染したのか分からない」という。
 40度近い熱が出たが受け入れ病院はなく、10日間ほど自宅で待機。重症化して緊急入院し、2日間ほど意識が戻らなかった。
「治療法ない」と医師、家計も苦しく
 約40日で退院。だが、激しい脱力感で何も持続できない。体重は10キロ以上落ちた。医師に相談すると「皆さん同じように訴えられますが、治療法はない」と困った様子だったという。
 感染前は介護ヘルパーの仕事が生きがいだった。
 コロナ禍で人手が減り、週に5、6日、一日5軒ほどを回った。「『元気?』って利用者の顔を見るのが楽しみで」
 だが感染後、体力は戻らず、「利用者に迷惑がかかる」と休職を決めた。
 事業所は「早く元気になって」と言ってくれたが、医師からは「これ以上肺の状態はよくならない」と診断された。
 家計も苦しくなった。年金収入は夫と合わせ月約8万円。治療費は2万円を超える月もあった。
毎日付けた業務記録を頼りに
 そんなとき、「職場で感染した可能性が高い。労災が認められるのでは」と知人が教えてくれた。
 「正社員じゃないから」とためらったが、ひょうご労働安全衛生センター(神戸市中央区)の助言を受けて雇用形態は関係ないと知った。発症前2週間の業務や行動歴、家族の発症状況などを書いて兵庫労働局に請求。毎日付けていた業務記録が頼りになった。
 感染経路は不明だったが、仕事以外で会った家族や知人に感染者はなし。厚生労働省が示した基準で、感染リスクの高い介護従事者は原則として労災の対象とされており、今年8月に認められた。
 就労時の給与の8割や治療費全額が国から支給されるようになった。「仕事で感染したと証明のしようがなく、認定は無理だと思っていた。金銭面だけでなく、感染が自分のせいじゃないと認められたようでうれしかった」と話す。
     ◇   ◇
■労災請求、国内感染者数の0・4%どまり 行動歴の明確化難しく
 世界保健機関(WHO)はコロナ後遺症について、少なくとも2カ月以上症状が継続し、他の病気では説明できない状態と定義。
 症状は、倦怠感や関節痛のほか、せき、息切れ、集中力低下、頭痛、嗅覚・味覚障害-などさまざま。感染者の4人に1人が半年後も後遺症があった-という国立国際医療研究センターの調査もある。
 厚生労働省は5月、医師が療養を必要とした場合は、後遺症も労災に認めるとの見解を全国の労働局に通知した。認定基準は通常のコロナ感染と同じだ。
 感染経路が業務によるものと明らかな場合か、経路不明でも感染リスクが高い業務(タクシー運転手、販売員など)に従事していた場合。特に医療や介護職の労働者は、業務外での感染が明らかでなければ原則対象になる。
 9月以降、感染者の「全数把握」が簡略化され、重症化リスクが低い感染者は医師が診断していないが、PCRや抗原検査での陽性を確認できる書類があれば労災申請できる仕組みに変更された。
 ただ、コロナの感染者総数約2130万人(9月末時点)に対し、労災請求は全国で0・4%の約8万9千件にとどまる。少ない要因の一つに、感染から時間がたつほど発症前2週間の行動歴を明確にするのが難しくなる点もあるとみられる。
 兵庫労働局の嶋村貴紀・労災補償課長は「仕事で感染したことを確認するためには、感染時の状況を整理しておくことが重要」としている。

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