甘さ和菓子レベル、ねっとり食感が決め手 神戸であつあつ「芋ブーム」あなたの推しイモは
2022/11/12 11:30
徳島県産のブランドサツマイモ「里浦ゴールド」の魅力を語る野元篤志さん=神戸市兵庫区荒田町1
朝晩がめっきり冷え込み、温かい食べ物に食欲がそそられる季節。神戸・三宮や元町近辺などを歩いていると、焼き芋の専門店やサツマイモのスイーツ専門店などが次々と見つかった。もしや、神戸では空前の「芋ブーム」が起きているのでは? いくつかの店に足を運び、イモを愛する人たちにそれぞれの「イモ事情」を聞いてみた。(末吉佳希)
■糖度40度以上、「日本一」の焼き芋
JR三ノ宮から西に向かう高架下の一角。芋の甘い香り焼きに誘われてたどり着いたのは芋専門店「神戸芋屋・志のもと三宮店」。店先の保温器はオレンジ色の温かい照明で照らされ、「シルクスイート」「安納黄金」「吾郎島金時」などさまざまな種類の焼き芋が並ぶ。
本店は「神戸の台所」と呼ばれる東山商店街(神戸市兵庫区)で2017年に開業。姫路に1店、東京に2店、愛媛に1店の計6店を手がけるのは、野元篤志さん(43)だ。野元さんは自他認める「芋マニア」で開業前には全国の焼き芋店に足を運んだ。また、商売で扱うサツマイモは産地まで直接足を運んで品質を確かめる徹底ぶりで、特定の農家と特定の畑を指定しているという。
手がける焼き芋の糖度は品種にもよるが、40度以上と和菓子レベルも。えりすぐった旬のサツマイモを常時4~6種類ほどそろえ、多様な需要に応える。「今は『ねっとり食感』が焼き芋ブームのポイント」と野元さん。それを支えるのが「熟成」の技術だ。
採れたては糖度も粘度もいまいちで、温度13度前後に湿度90%以上を維持した保管庫で寝かせることが鉄則。低温多湿の環境に長期間置くことで、でんぷんが糖質に変化し、ねっとりとした口当たりになる。それを低温でじっくりと焼けば、甘さとねっとり食感のダブルパンチがスイーツのように仕上がる。2020年に初開催の「全国やきいもグランプリ」で日本一に輝いた。十分うなずける至極の一品だ。
多くの品種を扱う野元さんにお気に入りを聞いてみると、徳島県産のブランド「里浦ゴールド」を推す。「外側がねっとり、内側がほくほく」の絶妙な食感に仕上がるといい「スイーツ感覚で食べるのも良いけど、本来のほくほくとしたも焼き芋の魅力なんです」と語る。
また、去る10月13日は、サツマイモの異名「栗(9里)より(4里)うまい13里」にちなみ「サツマイモの日」だそう。一方、野元さんは「2月24日を『焼き芋の日』に」ともくろむ。理由を聞くと「だって、やきいもグランプリで優勝した日ですから。僕にはとても大事な日なんです」と目を輝かせた。
神戸芋屋・志のもと本店(神戸市兵庫区荒田町1TEL078・600・9294)
■焼き芋の天ぷらと濃厚なアイスが融合
JR元町駅から北東に路地を行くと、焼き芋のスイーツ店「おいもわかいも神戸店」がひっそりとたたずむ。名前の通り、幅広い年齢層に愛されるお店を目指す意味が込められており、奈良県にある本店からのれん分けの形で松岡奈津子さん(26)が店長を務める。
今年3月のオープンから約半年。「芋天」を主力に人気を集める。約1カ月寝かせた熟成芋に薄い衣をまとわせる。食感は「さくさく+ねっとり」の良いあんばいだ。「ポイントはサツマイモを揚げる前に、一度焼き芋にすること」と松岡さんが極意を語る。こうすることで一気に糖度が上がり、優しい口当たりと確かな甘さが引き立つという。
不思議と美容関係のスタッフやトレーニングジム帰りのお客さんが多いそうで、松岡さんによると「自然由来の甘みなので健康に良い」と評判という。
また、夜はアイス専門店「N-ice(ナイス)」として営業するノウハウを生かし「芋天塩ソフト」も人気だ。サツマイモの甘さを邪魔しない濃厚な味わいのアイスクリームだが、芋天の塩気が甘さを引き立てつつ、すっきりとまとめる。添えられた大きな芋チップスがと相まって見た目のインパクトは抜群。ポリポリとした食感も良い。
松岡さんは「サツマイモはその時期のベストな品種を提供する。神戸散策のお供に是非」とほほえむ。
おいもわかいも(神戸市中央区北長狭通4TEL078・381・5955)
■素人と侮るなかれ おうちまで熱々届けます
神戸新聞西代専売所(神戸市長田区)では今年3月に新事業として焼き芋の販売が始まった。「どうせ素人」と侮るなかれ。実際に食べてみると、熟成芋のねっとりとした食感と甘みが舌に絡みつく。
きっかけは藤井征二所長(50)がサツマイモ好きの奥さんの大プッシュを受けてとのこと。「やるからには最高の焼き芋を」と従業員らと固く誓い、神戸市中央卸売市場本場(神戸市兵庫区)に通い、あまたのサツマイモを買い集めては、焼き加減、焼き時間、保温の温度管理などを徹底的に研究した。ひんやり冷たい「冷やし芋」としても提供し、夏は大きな反響があったという。
「焼き芋に情熱を注いでますけど、これも本業のためなんです」と藤井所長。焼き芋を始めたもう一つ理由には「地域住民との交流のきっかけにしたい」との思いがこもる。読者サービスの一環として、配達網を生かした予約制の宅配サービスも行っているという。
「売り上げも思いのほか良くて、焼き芋の人気に驚くばかりです。ただ…」と言葉を濁す藤井所長。「焼き芋屋さんとしての屋号が全然決まっていないんです」とぼそり。候補を聞けば「セイちゃん芋」「コミネちゃん芋」「チホちゃん芋」などなど。関係者の名前にちなんだものだが、それぞれ焼き芋への愛が深く、互いに譲らない様子が垣間見える。お近くの読者の皆さん、どれが良いと思いますか?
神戸新聞西代専売所(神戸市長田区神楽町4TEL078・621・0284)