コロナ禍、激務続くナースの心のケアを 元ベテラン看護師がカウンセリングルーム開設 神戸

2022/11/15 20:20

「看護師が1人で悩みを抱え込まないよう、問題解決に向けて伴走したい」と話す石葵さん=神戸市中央区、アンカー神戸

 「激務のナースの心を支えたい」。元ベテラン看護師が10月、女性ナースの悩みを聞くカウンセリングルームを神戸市内に開設した。新型コロナウイルス禍で医療現場の逼迫は続き、看護職の疲弊が深刻化。自身も厳しい環境で働いてきた元看護師は「経験したからこそ分かる仲間の無力感を受け止め、寄り添いたい」と語る。 関連ニュース コロナ重症化の男性、懸命治療で回復「感謝してもしきれない」 医療従事者の負担痛感 差別や偏見で割られた病院の窓ガラス 新型コロナ感染者200人超診察 怖いのは急変、夫婦最後の会話に涙 看護師長が語るコロナ病棟の現状

 神戸市中央区の石葵さん(52)。神戸三宮阪急ビル内のビジネス交流拠点「アンカー神戸」に、カウンセリングルームを確保し「ナースにこそケアを~with」を立ち上げた。
 石さんは1991年、看護師として働き始めた。兵庫県立こども病院など、夫の転勤に伴い県内外の病院で勤務。子育て期間中は現場を離れ、大学に通い認定心理士の資格を取得した。
 2006年に現場復帰。今春まで神戸市内の病院に在籍し、若手を指導しながら働く中でコロナ禍に遭遇した。
 発熱、救急外来で患者対応に追われたが、当初は「早期に収まるのでは」との観測があった。だが予想に反し、第2、3波と感染は拡大し続けた。日に日に増える患者に対して人員の余裕はなく、防護服での長時間勤務を余儀なくされた。24時間、救急受け入れ要請と向き合うなどスタッフの負担は増した。
 昨年3月下旬からの第4波では、重症化リスクの高い変異ウイルス(アルファ株)がまん延。専用病床はすぐに埋まり、入院できない患者も出始めた。「なんで入院できひんのや」。悲痛な訴えを聞いた時は、ぐさりと胸を刺される思いだった。
 「助けたい人の受け入れを断る経験は今までなかった」と石さん。苦しむ患者を前に何もできない無力感に、心が折れた若い看護師は多かったという。
 医療従事者への「差別」も追い打ちをかけた。ある知人は、夫の勤務先が社内にクラスター(感染者集団)が発生するのを懸念。「奥さんに看護師を辞めてもらうか、君が会社を退職するか決めてくれ」と迫られたという。
 平時なら同僚同士で悩みを打ち明け合えたが、その時間すらなかった。「頑張りに共感し、癒やす場も必要」と痛感したことが、心のケアの場につながった。
 石さんは「話をよく聞き、決して1人で抱え込まないように助言したい。家族のことも上司や先輩に相談できることがある。解決法を一緒に考えたい」と話す。直面する課題を仲間と一緒に考えるワークショップや、管理職に若手の支え方を指南することも行う。カウンセリングは7千円など。TEL070・2663・3390

■コロナ禍「感染する恐怖や不安感じた」78・6%「労働環境悪化」48・8% 看護職員にアンケート
 日本看護協会(会員数約76万人)は、看護職員を対象にコロナ禍の影響に関するアンケートを実施した。看護職の8割近くが自身の感染に不安を抱えており、慢性的な疲れを感じている人も半数以上に上った。
 コロナがまん延し始めた2020年3月から1年半の影響について、昨年10月から約1カ月間、ウェブなどで質問し、5121人から回答を得た。回答者は女性が93・5%を占め、看護師は86・6%だった。助産師や保健師、准看護師らからも回答があり、全体の平均年齢は41・3歳だった。
 働く環境について「自身が感染する恐怖、不安」を感じた人は78・6%に上った。「職場の労働環境が悪化した」は48・8%で、「周囲からの差別、偏見、心ない言葉」に接した人は19・6%いた。
 健康状況は「いつも体が疲れている」との質問に対し、「増えた」とした人は56・8%。精神状況の悪化も顕著で、47・8%が「不安やイライラ」を感じ、「落ちこみ、憂鬱感がある」が39・2%、「眠れない」が31%だった。(津谷治英)

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