「がん光免疫療法」兵庫で始動 神大病院、悪性のみ破壊 3週間で腫瘍7割壊死
2021/05/17 06:00
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近赤外光を吸収する物質の化学反応を活用し、ピンポイントでがん細胞をたたく「光免疫療法」が、兵庫県内でも始まった。県内の保険適用1例目は、神戸大病院(神戸市中央区)で実施された口腔(こうくう)がんの男性患者(73)=西宮市。再発を含め6回目の発症となり、手術は困難であるため、治療を諦めかけていた。だが、照射から約3週間で約7割の腫瘍が壊死(えし)したといい、主治医は「縮小効果はあった。根治に向け治療を続ける」としている。
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光免疫療法は、米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員(西宮市出身)が開発したがん治療法で、オバマ元大統領が2012年に一般教書演説で紹介した。昨年9月、日本で新薬が薬事承認された。
小林氏によると、抗体に特殊な物質をつけた薬剤を点滴し、翌日、薬剤ががん細胞に集まった時点で無害の近赤外光を当てると、化学変化によりがん細胞が破壊される。その後、壊された細胞から出た、がん特有の物質に対する免疫が活性化し、転移がんを治したり、再発を防いだりできるという。
神戸大病院の四宮弘隆特命准教授によると、男性は、12年以降、のどや歯肉、頬などのがんに対し、手術や放射線などの治療を受けてきた。今回、右頬の皮膚直下に縦45ミリ、横32ミリ、厚さ25ミリの腫瘍ができた。転移はなく、がんの状態としては悪い方から2番目の「ステージ3」。過去の治療歴からこれ以上放射線治療はできず、化学療法で根治できる可能性も極めて低かった。切除する場合は右頬をほぼすべて取り、おなかの皮膚などを移植する10時間程度の大手術をする必要があり、手術後に抗がん剤治療などをしてもなお「5年生きられる可能性が約50%」という厳しさだった。
4月23日に実施された照射では、空洞になっている針に光を発するワイヤを挿入したものを計5本刺し、腫瘍の内側から当てたほか、外側から腫瘍表面にも当てた。照射時間は計20分程度。針を刺す時間などを含めた治療全体でも1時間程度だった。男性は、副作用を抑えるため薄暗くするなどした病室で1週間過ごし、歩いて退院した。
照射から約3週間後の5月13日、コンピューター断層撮影(CT)画像を分析した四宮特命准教授は神戸新聞の取材に「腫瘍の7割程度が壊死したとみられる」と回答。「根治を目指しており、現時点で治療の評価はできない。近く2回目の照射を実施したい」と話した。
退院時の取材で「痛みが強いが、石みたいにかちかちになっていたところが少し柔らかくなってきた」と男性。CT検査後の診察を受け、「今回効かなかったら諦めようと思っていた。うれしい」と話した。
(霍見真一郎)