逆境を血肉にした阿部 「令和の巌流島決戦」制す

2020/12/14 21:23

五輪代表決定戦で、丸山城志郎(左)に勝利した阿部一二三(代表撮影)

 柔道男子66キロ級の東京五輪代表決定戦は13日、東京・講道館で行われ、2017、18年世界選手権2連覇の阿部一二三(パーク24、神港学園高-日体大出)が19年世界一の丸山城志郎(ミキハウス)を24分間に及ぶ激闘の末に優勢で下し、初の五輪代表となった。妹で女子52キロ級の阿部詩(日体大、夙川高出)とともに日本柔道史上初のきょうだい五輪代表が実現した。 関連ニュース 「生きるか死ぬかだ」阿部一二三と丸山城志郎、柔道五輪懸け史上初のワンマッチ方式 阿部一二三の激戦、父「生きた心地しなかった」 苦境支えてくれた家族と勝ち取った五輪切符 阿部一二三が勝利、初の五輪代表 柔道、24分の大熱戦で丸山破る


 誰が言い始めたか、「令和の巌流島決戦」。舞台は柔道総本山の講道館。競技創始者である嘉納治五郎の肖像が見守る中、新旧世界王者が姿を現した。
 無観客の会場に、審判の「はじめ」の声。以後は選手の足裏が畳にすれる音のみ、響く。
 嘉納と同じ神戸出身の阿部は攻めた。「持っているものを全て出しきる。やるしかない」。前へ前へと出る。得意の担ぎ技だけでなく、磨いた足技も畳みかける。先に丸山の指導を引き出した。
 延長に入り10分、15分…。タイマーに刻まれる時間がどれだけ増えても、覚悟の上だ。間合いを詰めようとしてかわされても、冷静だった。「自分が出ないといけない時間と、耐えきる時間を判断できた」
 延長20分だった。阿部が右足で、相手の左足を刈り、肩を地に着けた。技ありを奪い、ほえて、涙腺決壊。関係者として会場で見守った妹詩と母愛さんは立ち上がり、抱き合って涙した。
 コロナ禍で約10カ月間、実戦から遠ざかったが、逆境さえも血肉にした。200段以上続く階段をダッシュするなど過酷なトレーニングで足腰をつくり、スタミナを養った。決戦が近づくにつれ、周囲には「今までで最高の仕上がり」と自信を示していた。
 早くから「天才」と注目されながら、昨夏の世界選手権まで丸山に3連敗。五輪代表レースで後退してからの逆転劇に、全日本柔道連盟の金野潤強化委員長は「勢いだけでなく、怖さを知った上で飛躍した」と心の進化をたたえた。
 「気持ちと気持ちのぶつかり合い。1シーンも忘れられない闘いになった」とかけがえのない体験をした23歳。インタビューで、一足早く五輪切符を得ていた妹に「ほんとにお待たせ」と語りかけた。(藤村有希子)

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