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アメリカでバスケットボールコーチとしての活動を続ける東山真さん(提供写真)
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アメリカでバスケットボールコーチとしての活動を続ける東山真さん(提供写真)
ロサンゼルス・ハーバー・カレッジの選手とコミュニケーションをとる東山コーチ(流通経済大小谷究HC提供)
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ロサンゼルス・ハーバー・カレッジの選手とコミュニケーションをとる東山コーチ(流通経済大小谷究HC提供)
2020年の「ジョン・R・ウッデン賞」コーチングの伝説受賞者でカリフォルニア州立大LA校HCのデイブ・ヤナイさん(中央)と東山コーチ(左)(提供写真)
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2020年の「ジョン・R・ウッデン賞」コーチングの伝説受賞者でカリフォルニア州立大LA校HCのデイブ・ヤナイさん(中央)と東山コーチ(左)(提供写真)
デューク大のマイク・シャシェフスキーHC(左)と(提供写真)
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デューク大のマイク・シャシェフスキーHC(左)と(提供写真)
「ステフィン・カリー 努力、努力、努力。自分を証明できるのは、自分だけ」(ごま書房新社)
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「ステフィン・カリー 努力、努力、努力。自分を証明できるのは、自分だけ」(ごま書房新社)

 世界的な人気を誇る米プロバスケットボールNBA選手、ステフィン・カリーの伝記本が日本で今秋、出版された。翻訳したのはバスケットボールの母国・アメリカでコーチとして活動する兵庫県出身の東山真さん(50)。圧倒的なシュート力で競技の常識を変えたスーパースターが、華やかなプレーの陰で受けた偏見や積み重ねた努力を詳細に伝え、米国特有の複雑な差別意識や激烈な競争社会などの背景も浮かび上がらせている。(大山伸一郎)

 「ステフィン・カリー 努力、努力、努力。自分を証明できるのは、自分だけ(【原題】GOLDEN:The Miraculous Rise of Steph Curry)」(ごま書房新社)で、米国のスポーツコラムニスト、マーカス・トンプソン2世氏の著書。2009年にNBA入りしたカリー選手が周囲の過小評価をはねのけ、チーム・個人ともに世界一に上り詰めた理由が、その生い立ちや家族の愛、バスケットボールへの向き合い方を通じて描かれる。

 父親が有名バスケットボール選手だったことによる複雑な「逆境」や、人種的には黒人でありながら肌の色が薄い「ライトスキン」であることで受ける偏見などの説明は、バスケットボール文化に精通する訳者ならでは。特に、日本を含めて世界的にファンが広がる中、米国内では「アンチ」も増えた状況を記した第8章「カリー嫌い」は、日本のファンにとっては意外な内容となっている。

 東山さんは兵庫県加古川市立山手中、高砂南高から龍谷大、国際武道大大学院を経て、2000年に渡米。カリフォルニア州を拠点にスポーツ観戦旅行会社勤務の傍ら、12年からは2年制のロサンゼルス・ハーバー・カレッジでアシスタントコーチ(AC)を務めている。日本以上に新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)されているアメリカで、今もコーチ修行の日々だという「コーチM」に、バスケットボールにかける思いを聞いた。

Q:バスケットボールとの出合いは?

A:小学生の時、たまたま一緒に遊んでいた子についていって始めました。山手中は強豪で、日体大を出たばかりの立野裕之先生(前・加古川市立氷丘中校長)から指導を受け、1年生の時は県で3位(女子は優勝)で、2年生時は優勝。だけど私たちの代は東播大会で負けてしまった。進学した高砂南高でも全国大会には届かずに達成感を得られず、競技を続けた龍谷大では3部リーグから2部に昇格することができましたが、バスケットボールに関わっていられる方法を模索していました。

Q:渡米は30歳(2000年)ですね。

A:大学卒業後、最初はトレーナーになりたいと思い大学院で研究、修業に励みました。渡米のタイミングは「今しかない!」と決断したんですけど、英語学校に通いながら実はトレーナーとコーチ、どちらを目指すか悩んでいました。ただこの地に立ったこと自体が答えだと決断し、トレーナーの恩師には泣きながら手紙を書いて、コーチングの専攻でロングビーチ州立大学の大学院に入りました。大学チームのマネジャーを務めながらNBAのサマーリーグにもインターンとして参加して将来的にコーチを目指す日々の中、同じ体育館をホームにする独立リーグ(ABA)のロングビーチジャムにはNBAに挑戦する田臥勇太選手がいました。田臥選手とは多くの時間を一緒に過ごし、彼の華やかなプレーだけでなく、孤独な戦いも、両親に対する感謝も、いつも感心しながら見守っていました。あの出会いは今も僕の心の中で大きな励みになっています。

Q:渡米直後は苦労もありましたか?

A:たくさんありましたけど(笑)。カリフォルニア州立大学LA校のデイブ・ヤナイヘッドコーチ(全米大学体育協会(NCAA)初の日系人HC)からの言葉は強烈でした。いつか日本に帰ってバスケットボールの発展に尽くしたいと話した私に「君じゃない」と厳しい口調で言われました。「それはリク(陸川章・東海大HC、元日本代表選手)やシュウ(小野秀二・能代工HC、元日本代表HC)たちの仕事だ」と。何の実績もない私に突き付けられた厳しい現実でしたが、当時はもう、腹が立って「絶対見返してやる」と覚悟ができました。それから15年以上がたち、今では代理人のようなことを任されるほど近い存在になり、緊張することも減りました。最も大切な恩師の1人です。ヤナイさんは先日、NCAAの「ジョン・ウッデン・アワード」で「コーチングの伝説」(https://lagoldeneagles.com/news/2020/11/18/mens-basketball-former-basketball-head-coach-dave-yanai-earns-big-honor.aspx)を受賞したんですよ!歴代受賞者にはノースカロライナ大のディーン・スミスさん(マイケル・ジョーダンら数多くの名選手を輩出)やデューク大のマイク・シャシェフスキーさん(アメリカ代表監督務めたコーチK)ら、世界的な名将が並んでいます。日本のバスケットボール界にも多大な影響を与えてくれた方です。

Q:20年の道のりは

A:実は2005年に一時帰国して約1年半、アメリカに戻れなかったんです。ただその間、大阪のプロチームや東京のクラブチームにお世話になり、人間関係を広げることができました。07年に再渡米し、就労(特殊技能)ビザを取得して6年間はバスケットボールの現場から離れて働き、我慢を重ねてグリーンカード(永住権)を取得して、今のカレッジでACとなって9シーズン目です。2年制のカレッジでは4年制の大学への編入が目標なので、競争はある意味余計に激しい。日々が「トライアウト」で「サバイブ(生き残り)」した選手を、チームとしても勝たせなければ注目すらしてもらえません。エリア的には貧しい地区で、両親がそろっていない学生がほとんど。食事もろくに取れない、悪い誘いが常に近くにあるような子どもたちですが、運動能力は飛び抜けていてコートに入れば驚くようなプレーを見せてくれます。ただ、新型コロナの感染が広がった春からチームの活動は止まってしまい、編入のために実力を披露するはずのリーグ戦も開催のめどすら立たない状況です。NBAやNCAAのD1(ディビジョン1、最上位リーグ)は感染予防を徹底して開催されていますが、他のリーグに同じ対策が適用されることは非常に難しいでしょう。アメリカでは、カテゴリーの違いによる格差は非常に大きいんです。そういう意味でも、(平均すると)日本の環境は恵まれていると感じることも多いですね。

Q:今回、翻訳したきっかけは?

A:流通経済大学の小谷究HCとアメリカで知遇を得て、そこから出版社を紹介してもらって依頼を受けました。コーチングで、私が力を入れているのがシューティングメカニズムとスポーツ心理学です。NBA史に残る3ポイントシューターのカリー選手が成功した背景を書いた本ですが、血のにじむような努力の積み重ねだけが、彼のような素晴らしいプレーヤーになれる唯一の方法であるということを、日本でもアメリカでも次世代の選手たちにぜひ知ってほしいです!

Q:日本にも多くのカリーファンがいます。

A:そうみたいですね。ただ、そのあまりの人気によって弊害も生まれているとも聞いています。試合で華麗にシュートを決めているあの姿、あの格好いいポーズだけをまねて、彼が積み重ねた努力は当然見ることはできない。弱いイメージを覆したい一心で続けた彼の「努力」、そしてその競争心を生んだアメリカのバスケットボール文化を知ってほしいと思います。

Q:日本のバスケットボールの未来をどう見ていますか?

A:八村塁選手(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太選手(トロント・ラプターズ)のNBAでの活躍は「日本人が活躍するのは難しい」というメンタルバリアー(心理的障壁)をなくしつつあります。個人技に頼らないヨーロッパの育成手法を取り入れる指導者、組織も増えています。言葉も含めて世界と対峙(たいじ)するという壁は厚いけれども、ぶち破るパワーは日本の若者にもあると思います。

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