阿部一二三「歴史を塗り替えた」詩「初めての感覚」兄妹で五輪制覇
2021/07/25 23:11
柔道男子66キロ決勝 優勝を決めて喜ぶ阿部一二三=日本武道館(撮影・堀内翔)
妹は求め続けた「絶対的な強さ」を手に入れた。兄は失いかけた輝きを取り戻した。柔道は女子52キロ級の阿部詩と、男子66キロ級の阿部一二三が日本史上初の兄妹五輪制覇を達成。兄は「歴史を塗り替えることができた。これから日本の柔道を引っ張っていく」と新たな誓いを立てた。
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詩は決勝で、自身の柔道人生に過去唯一、土をつけた海外選手アマンディーヌ・ブシャール(フランス)と対戦。本戦4分、延長4分超の末に磨いた寝技で決着し「初めてのような感覚が舞い降りてきた」。喜びが全身に満ち、涙があふれる。何度も畳をたたいた。
続いて決勝に挑んだ一二三は「妹が金メダル。すごく燃えた」。ジョージアの強敵の動きを冷静に見定め、右足を絡めて技ありを奪取。「ワンチャンスをものにできた。レベルアップした心技体すべてを見せられた」と誇った。
ともに幼い頃から、地元神戸の柔道教室で技を磨いた。泣き虫少年だった兄は中学、高校で日本一を達成するまでに成長し、日本体育大時代には世界選手権2連覇を達成した。
詩が「背中を追いかけてきた」という一二三だが、試練の雨が降りそそぐ。けがから復帰した丸山城志郎(ミキハウス)に、2018年秋から3連敗。世界選手権の3連覇も打ち砕かれ、五輪出場が危ぶまれた。
それでも「自分の柔道は絶対に間違ってない」。前へ出る。一本を取りにいく。攻撃型柔道を貫き、昨年12月、宿敵との五輪代表決定戦を制した。24分間という異例の長さの死闘。「妹には絶対に負けられない」という兄の意地でもあった。
詩は「技の引き出しは兄以上」と評価が高く、世界選手権も圧倒的な力で2連覇したが、それでも「柔道をしている兄が大好きで、尊敬している」。兄への思いはこの先も、変わることはない。
競技創始者で神戸出身の嘉納治五郎がかつて、東京への誘致に心血を注いだオリンピック。時は巡り、同じ郷土の兄妹が「TOKYO」で頂点を極めた。
(藤村有希子)