脱「勝利至上主義」の潮流、兵庫でも 全国優勝のバスケットクラブ、阿部兄妹輩出の柔道教室
2022/09/11 20:00
柔道五輪金メダリストの阿部兄妹を輩出した兵庫少年こだま会の練習。高田幸博監督(右端)は「勝利至上主義」からの脱却を目指す=神戸市兵庫区内
子どものスポーツ界で行き過ぎた「勝利至上主義」に歯止めをかけようとする動きが兵庫県内でも出てきている。バスケットボールの全国大会優勝クラブや、五輪金メダリストを輩出した柔道教室も、目先の勝利にこだわらず「長く楽しめるように」と選手を育成。将来的な成功にもつながり、注目を集めている。(藤村有希子)
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全日本柔道連盟は今年、個人戦の全国小学生学年別大会を廃止した。階級別の大会に向け、指導者や保護者が子どもに無理な減量や増量を強いたり、審判員にやじを飛ばしたりするケースが散見されたためだ。
国内の未成年のスポーツ界ではこれまで、トーナメント戦が主流だった。負けたら終わりの仕組みの下、けがを押して出場するなど勝敗に固執する習慣ができ、試合に出ないまま引退する補欠選手も生まれた。
保護者らの過熱ぶりについて、阪神地区の高校バスケットボール部監督は「進路が懸かっていることも一因では」と分析。「小学生が全国大会で好成績を収めるといい中学に進学でき、さらに高校以降の進路にもつながるから」と成績が競技人生と結びつく現状を指摘する。
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今年1月、バスケットの15歳以下日本一を決める全国大会男子で、神戸市のクラブチーム「ゴッドドア」が優勝した。本間雄二監督(43)は「1回戦負けでも優勝でもいい。練習で培った力が人生のいろんな場面で発揮されればうれしい」という考えで臨んだという。
本間監督はかつて強豪国スペインで育成の現場を目にし「日本では『今の勝利』を目指すが、スペインでは勝敗はどうでもいい。将来につながる取り組みをしている」と気付かされた。
帰国後、「成功より成長」をクラブのテーマに掲げた。教え子がプレーで失敗しても「成長のために必要なもの」と捉え、自己肯定感を高めさせた。長身のエース選手も、得点を簡単に稼げるゴール下ではなく、司令塔に起用。将来プロで長く活躍できるようにと、ドリブルや外角からのシュートなど多様な技術習得に時間を割いた。
本間監督は「小学生の全国大会は廃止すべき。中学世代でも不要ではないか」と話す。並行して教える小学生対象の魚崎ミニクラブ(神戸市)も全国大会へと導いたが「大人が目先の勝利にこだわると、取り組むべき優先順位を間違ってしまう」と危ぶむ。
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小学生が汗を流して活気にあふれる神戸市兵庫区の柔道教室「兵庫少年こだま会」。昨夏の東京五輪で兄妹そろって金メダルに輝いた阿部一二三(25)=パーク24=と阿部詩(22)=日本体育大=の両選手は、ここから巣立った。
高田幸博監督(58)は阿部兄妹の在籍当時から、勝利のためのポイント稼ぎではなく、「一本を取る柔道」の大切さを説いてきた。教え子が、試合で大柄な相手に真っ向勝負を挑んで敗れても責めず、真摯(しんし)な姿勢を評価。その教えは阿部兄妹の今の競技スタイルに通じる。
全国大会の廃止については「反対ではない」としつつ、「指導者や保護者が過熱しすぎるケースはごくわずか。全国大会開催によるデメリットを最小限にし、メリットを追求できればよかったのでは」と話す。
小学生時代の一二三は兵庫県予選で敗れ、全国大会に出られなかった。「彼がその悔しさをバネにして頑張ったのは間違いない」と大会の存在意義も口にする。
指導者として「大事なのは勝利至上主義に陥らないこと。柔道を楽しみながら頑張ることを伝えたい」と肝に銘じている。